外食の潮流を読む(128)人気絶頂「蛇口からお酒が出る」 居酒屋に存在する緻密な設計図
いま「Z世代に人気の居酒屋」の一つに「テルマエ」が挙げられる。同店の特徴は「蛇口からお酒が出てくる」ということ。1号店は2021年11月に名古屋・名駅のビル6階にオープンし、25年11月末に19店舗となっている。店は40坪程度と少し広めで、訪れた際は、全員20代の客で満席であった。
「テルマエ」を展開しているのはBIRCH(本社/東京都品川区、代表/高橋光基〈てるき〉)で、2019年8月に会社を設立。高橋氏もZ世代である。同社では「2000円で食べ飲み放題」の店5店舗をすべて空中階で展開していた。コロナになった途端に、毎月1000万円がキャッシュアウト。「業態を変えよう」と考えていたところ、「蛇口からお酒が出てくる」ことをひらめいた。
この仕組みを採用した1号店を1ヵ月後にオープン。コロナで月商300万円となっていたが、「テルマエ」になってからすぐに900万円、1000万円を売り上げるようになった。
同社では「このシステムは、空中階でも集客力がある」と確信し、若者をターゲットに客単価を2500円に定めて、店舗展開していった。
このシステムは、客にとっては「体験価値」であるが、経営する側にとっては「人件費削減」である。同社ではこの浮いたコストをモバイルオーダーに投入した。客とはLINEでつながり、翌朝にアンケートを実施。回答率の目標値を設定し、成果目標を高めた。アンケートの結果から、店の改善を行うようになった。客にLINEを送ることで、リピーター率の成長を図ることができた。
店内は「銭湯」のイメージで統一している。そもそも「テルマエ」とは、「お酒が湧き出る泉」という発想から膨らんでネーミングされたもの。冒険家で商売人のテルマエ隊長が、「酒の泉が湧いている」という伝説を信じて、幼い頃から世界中を飛び回り、30年におよぶ戦いの末に、伝説の泉“酒泉”を発掘して、蛇口を取り付けた。–というストーリーが店内に描かれている。
店名の由来は古代ローマ時代の公共浴場。そこは単なる入浴施設でなく、社交場として人々の生活の中心に位置づけられていた。これになぞらえて、銭湯のようにくつろげる社交場という同店のコンセプトを表現したわけだ。
「ストーリーテリングが重要だと考えているのです。『ウサギとカメ』といえば、誰もがウサギとカメの様子や物語を思い浮かべることができます。これと同じような仕組みを取り入れているのです」と高橋氏は語る。
「テルマエ」とは、業態でいえば、「客単価2500円で、蛇口からお酒が出る店」である。しかしながら、ただ単にそれだけでは客にすぐに飽きられてしまう。そのために、記憶に残るストーリーを作り上げた、というわけだ。人気絶頂の背景には、緻密な設計図が存在しているのである。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。












