フードコンサルティング 上場企業にモノ申す(13)関門海 「原点回帰」だけで再生できるか?

2012.08.06 401号 04面

 ●低価格の元祖

 同社は、低価格フグチェーンの元祖として1989年にチェーン展開開始。現在でも「玄品ふぐ」86店、カニ料理や回転寿司など22店、合計100店舗を超える規模を有している。

 ご存じの通り、フグ料理は江戸時代から和食の高級料理として広く認知されており、今でも主に冬場を旬として接待やおもてなしの場面に使われている。それを、3780円からコース料理が楽しめるという低価格路線を掲げて本社(大阪)のある関西地方で一世を風靡(ふうび)し、94年に東京進出を果たしてからはチェーン展開に加速がつき、ついに2005年6月には東証マザーズに上場を達成した。

 ●創業者の急逝

 ところが、上場を果たして絶好調の同年11月、創業者の山口元社長が交通事故により急逝してしまった。

 山口元社長は、それまでどこも展開できなかった低価格フグチェーンという画期的な業態を開発した上に、上場まで果たしたいわば立志伝中の人物で、同社内においてもカリスマ的存在として君臨していた。カリスマ創業者が急逝すると、主力の低価格フグ店を中心としたチェーン展開から、にわかに経営の方向性が変わっていった。

 その中心となったのが、谷間前社長であった。もともと公認会計士である谷間前社長は会計の専門知識を生かす形で同社のCFOに就任したが、その後、創業者が急逝した翌06年7月に谷間前社長が当時取締役を兼務していた外食ベンチャー「バルニバービ」(大阪)と業務提携契約を締結して洋食業態や学食事業に参入するなど、同社の多角化路線が本格化する契機となった。

 続く07年5月には、惣菜の宅配会社を買収して中食ビジネスに進出。翌08年7月には回転寿司チェーンを買収するなど、カリスマ創業者の急逝を受けて、まるでたがが外れてしまったかのように急速に業態の多角化を推進していった。

 ●多角化の失敗

 もともと、主な素材であるトラフグの味覚は冬が一番おいしいといわれることから、主に冬場(12~2月)がピークであり、裏を返せばフグの味や漁獲量が落ちる春以降はビジネスとしても落ち込むことを意味している。

 特に同社はフランチャイズ展開を行っており、チェーン本部として自社だけでなくフランチャイズ加盟店に対する業績確保の責任も負っている。さらに、上場企業となった以上は株主に対する責任が上場前と比べて格段に重くなったことも考えると、前経営陣が多角化により業績を安定、拡大させようとしたことは理解できる。

 上場外食チェーンの中でも、本連載でも取り上げたグローバルダイニング(カフェ、イタリアン)や吉野家(牛丼)、三光マーケティングフーズ(居酒屋)など、主力業態の存在が大きく業績依存度も高い会社ほど多角化路線に走りやすい傾向があるため、フグ中心の同社が多角化路線を選んだとしても何ら不思議ではない。

 しかし皮肉なことに、同社の多角化路線がピークを迎えた08年11月期の売上高113億円を業績のピークとして以降は減収減益に転じ、特にここ直近3ヵ年は最終赤字が続き債務超過に転落したことから、遂に昨年11月に谷間前社長が退任して、多角化路線は修正されることとなった。

 新経営陣の元で、財務面では今年5月末に5億円の増資を行い債務超過は解消できたが、事業面では不採算店舗の閉鎖に加えて惣菜宅配事業の売却や不振業態の廃止を断行し、再び低価格フグ業態を強化する原点回帰を目指すとしているが、果たして売上げ、利益とも回復軌道に乗せることができるだろうか。

 それらの施策だけでは、季節性に左右されるフグ業態の弱点を抱えたまま出店拡大を再開する、財務的に負担の重い選択肢とはならないだろうか。低迷する株価が示す同社の先行きは決して明るいとは言えないだろう。

 ◆フードコンサルティング=外食、ホテル・旅館、小売業向けにメニュー改善や人材育成、販売促進など現場のお手伝いを手掛ける他、業界動向調査や経営相談などシンクタンクとしても活動。

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