で・き・る現場監督:かたりべ店長・佐藤慎吾さん

2000.01.03 195号 15面

東急池上線雪谷大塚。住宅街と背中合わせに建つ複合ビルの一フロアに、平成11年4月にオープンした「あそびと料理の達人・かたりべ」がある。(株)エス・アンド・ワイに入社し「八百八町」で五年間キッチンを中心に担当、のれん分けしてもらい、オーナー店長としてスタートしたのが佐藤慎吾さんだ。

当初から一㎞圏内の住人を対象としていたため、オープンが決まってからは、「ほうきとちりとりを片手に持って」自らチラシをポストに入れたり、配ったりした。ゴミを見つけたら、すかさず掃除して、地域に密着しようという計画だ。狙いは的中、今ではお客の九割が、地元のリピーターで占めている。

コンセプトは、店名に「あそびと~」とあるように、お客に目いっぱい遊んで楽しんでもらうこと。鉄板焼、いろり、バーカウンターの三つのゾーンに分かれている店内だが、鉄板焼は目の前で焼くパフォーマンス、いろりは自分たちで好きなように焼く楽しさ、そしてバーカウンターはバーテンとの会話と、用途や気分によりさまざまな楽しみ方ができるよう工夫が施されている。しかしいざオープンが近づくにつれて、不安は募るばかりだったという。

「こういう新形態の店というのはデータがありませんから、正直いって怖くて仕方なかったです。お客さまが求めているものは、本当にこれなのだろうかって、毎日悩んでいました」

佐藤さんはその不安を少しでも紛らわせようと、品書きを一つひとつイラストを交えながら手書きで作成した。ところがこれが「進む道を間違ったのではないか」とわれながら思うほどうまく仕上がった。さらにホタテ貝をイメージした木製のメニューカバーも、糸のこを使って器用に作り上げた。店内のところどころに掛けられた絵もすべて佐藤さんのオリジナルだ。

幸い、メニューや壁絵はスタッフにもお客にも好評を博し、懸念していた新形態もすんなりと受け入れられた。開店当初の目標売上げをクリアするまでに、そう時間はかからなかった。

リピーターが多い理由として、もうひとつスタッフとのきずながあげられる。現在社員は佐藤さん一人で、あとは大半が学生アルバイト。あまり世間慣れしていないスタッフに、お客には常に感謝の気持ちを持って接するようにと願う佐藤さんだが、自分の性格を「優しすぎる」と分析するように、面と向かって強いことが言えない。

そこで、言葉でなく態度で示そうと、来る日も来る日も徹底したサービスを身をもって示し続けた。結果、スタッフは一人、また一人と佐藤さんのサービスを自分のものにしていった。

「口で言うのは簡単ですが、スタッフには自らサービスすることの楽しさを知ってもらいたかったんです」

そんなサービスに居心地の良さを覚え、家庭の延長線として来店するお客が多いというのもうなずける。

佐藤さんは現在、二ヵ月間無休で働いている。鉄板焼のできるスタッフが佐藤さんしかいないためだ。店の営業時間が午後4時から翌朝の4時までなので、毎日一二時間、家には寝に帰っているようなものだという。

そんな佐藤さんの唯一の楽しみは、毎日寝る前にビデオを鑑賞すること。それもアメリカ映画に限るという。

「あの半端じゃないスケールの大きさが好きですね。監督や俳優、スタッフたちの、お客を喜ばせるためならなんだってやってやるんだ、という姿勢がたまらないんです。もう、絶対にアメリカですよ」

ひとしきり熱く語ったあとで、「自分もこの店でああいう風にお客を喜ばすことができたらいいのにな」と続ける佐藤さん。

アメリカ映画ばりのエンターテインメント性をもたせた店づくりを目指す佐藤さんが、今後どのような仕掛けを見せてくれるのか、とても楽しみだ。

◆あそびと料理の達人・かたりべ/東京都大田区南雪谷二‐二‐一三、03・3748・3300/店舗面積=五〇坪・八〇席/従業員=正社員一人、パート・アルバイト二五人/客層=二〇~三〇代、男性、女性半々/客単価=二七〇〇円

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