焼肉料理 イメージ刷新で大きく変貌、課題は客単価の抑制
焼肉レストランは、昭和20年代の戦後の焼跡社会に登場したホルモン焼から出発し、発展していったその延長線上にあるといわれているが、元をただせば牛や豚の臓物を利用したホルモン焼が原点だったということである。つまり、食糧欠乏時代の“サバイバル・フーズ”だったということで、決してハレがましい食べものではなかったわけである。それはともあれ、ここ数年来の焼肉レストランの様変りは目を見張るものがある。無煙ロースターの導入はもちろんのことであるが、店舗の造作も明るく清潔、あるいは、シックで高級感あふれるという雰囲気の店もあるのであるが、イメージがすっかり変ってしまっている。
かつて焼肉レストランといえば、炭火で肉を焼き、立ち込める煙にまかれて食するというのが一般的な光景だったのであるが、そういった原風景は今ではほとんど珍しい存在となってしまっている。
焼肉はその料理の形態からして、煙とニオイが出るのであるが、衣服にそれらが滲み込むので、他のレストランのように気軽に利用するというわけにはいかないと、敬遠されがちな面があった。
“焼き肉は食べたし、されどケムリ・ニオイはイヤ”ということだったわけであるが、そのためにもう一つ集客力が高まらず、メジャー商品になり得なかった側面もあったのである。
無煙ロースターの登場はまだ一二、三年ほどの歴史であるが、この登場は焼肉料理に対し大きな変革をもたらした。つまり、需要を拡大し、マーケットを大きく掘り起して、他のレストランサービス同様に広く市民権を得たのである。
煙が立ち込めないので、店の内装も明るく、女性好みにおしゃれ感覚のインテリアを打ち出すことができる。女性は外食産業の大きな担い手でもあるので、女性を集客することはレストランサービスの決定的なキーポイントになる。ここ数年来、焼肉レストランに女性客が増えてきたのは、こういった背景を理解して、店舗造作面にも大きく工夫を凝らしているからでもある。
かつて大衆イメージであった焼肉レストランが、高級イメージ化し、却ってハレの世界の料理になりつつあるという傾向である。
ごく普通の一般的な焼肉レストランであっても客単価は四、五〇〇〇円前後。ハレがましい店で会食すれば、一人七、八〇〇〇円ぐらいはする。投資コストの面や原価率からすれば、当然の価格帯というのが業界共通の認識でもあるが、しかし、これではフランス料理や会席料理並みの価格設定で、最早大衆料理とはいえない。
焼肉はカルビーやロース、タン、キムチ、クッパーなどに代表されるのであるが、これら単品メニューはメインディッシュで一二〇〇~三〇〇〇円前後、ご飯もので八〇〇~一〇〇〇円、サラダ、漬物、スープなどサイドメニューで五〇〇~八〇〇円前後というのが一般的なプライスゾーンで、これらを数品とれば、客単価四、五〇〇〇円くらいにはなる。
「立地や投下資本に見合った店づくりではなく、安易な考えで参入した店も多いと思うんですが、見かけの単純さほどにはそう甘くはないビジネスなんです。結局はコスト管理が十分でなく、メニュー単価を高くした分、却って経営が苦しくなってしまうことになるわけなんです。
何を売り、誰れに売るかというコンセプトがしっかりしていないと、店にとっても、客にとっても高いものについてしまい、両方が不幸な結果ということになってしまうと思うんです」と話すのは、㈱遠山商事(本社東京・西麻布)の遠山光男社長。
これは遠山氏特有の皮肉であるかも知れないのであるが、真に焼肉料理(レストラン)がハイブローになるには体質改善や人材の面でもまだまだ先といえるかも知れない。
「焼肉料理は韓国料理と考える人が多いと思いますが、私はこの料理はあくまでも日本で生まれ育ったものだと思っているんです。味つけも、肉などの材料の選択も極めて日本人好みのものだと理解しているんです。そして、基本は醤油文化です。ですから、本来が大衆的で日常的な料理形態なんです。
それが、どういうわけか高級化志向になってしまっている。もちろん、そういうタイプの店があってもいいんでしょうけど、全部が全部そういった考え方では、焼肉は高いということで、やがては客に敬遠されるようになってしまうと思うんです。私は今後は個性があって、もっと気軽に利用できる業態というのも考えているんです」(遠山光男氏)。