インサイドレポート 低価格時代の外食・飲食業 飲む居酒屋から食べる居酒屋へ

1996.07.01 104号 4面

不況知らずの居酒屋業態。ここのところ“食”の充実がめざましく、もはや“居酒屋”というよりも“居食屋”といった観がある。この“居食屋”を標榜するのがワタミフードサービス(株)の「和民」チェーンと、「庄や」チェーンを中核とする(株)大庄グループの各店である。どちらも21世紀のキーワードを“手作り”とにらみ、アルコールよりも料理が先立つといってはばからない。飲ませるから食べさせるにシフトする両社の動向をリポートした。

居酒屋チェーンの「庄や」(本部=大庄、平辰社長)がこの7月から新メニューに切り替える。これまで一一〇点近くのアイテムを八十数点に絞り込み、仕込みや商品ロスの効率化を図ると同時に、メニューに「庄やならでは」のメリハリをもたせることが狙いだ。

具体的には、長年売り物にしてきた刺し身などのなま物についてはさらに充実を図り、コンニャクサラダなどライト感覚で楽しめるアイテムを投入。ホンモノ志向、ライト志向のニーズに応えようとするものだ。

メニュー改定は九二年4月以来、実に四年ぶり。従来は二年ごとに見直していたが、なぜ四年間も手がつけられなかったのか。大内靖夫管理本部長が答える。

「正直言って、何をどう変えればいいのか迷いつづけた四年間といっていいでしょう。今回も一気には改定せず、取り敢えず3月から試験的に新メニューを導入し、その間、お客様へのアンケートなども実施して反応を分析し、メニューを絞り込みました」

ここ一~二年、居酒屋の世界には新興勢力が台頭した。北海、めのこなどに代表される刺し身居酒屋の登場、何十人単位の宴会にも対応できる大型店の出現、白木屋や天狗など安さとライト感覚を売り物に、徹底的にメニューを絞り込む店とさまざまだ。「どのタイプの店からも、庄やが標的にされた部分がある」(大内管理本部長)というのも、あながち否定できない。

かたや、なま物の代表である刺し身を武器にする居酒屋、かたや、セントラルキッチンで調理したものを加熱するだけというスピードが売り物の居酒屋。この両極端の居酒屋がターゲットにされ、庄やとしては動くに動けなかったというのが、四年間の“沈黙”につながったようだ。

しかし、指をくわえて見ているわけにはいかなくなった。ここ一年、既存店の売上げが低迷しはじめたのだ。今年度も、スタートの九五年9月から連続して対前年割れ。10月は対前年九〇・二まで落ち込んだ。

そこで、定番の人気メニューである焼き鳥、肉じゃが、モツなどはそのままに、刺し身とサラダ類の両方を強化した新メニューの試験的スタートに踏み切った。

このメニュー改定は手応え十分であるという。新メニューが浸透しはじめた今年5月には対前年九九・九三と、ほぼ昨年並みの売上げにまで盛り返すことができたからだ。

「しかし、まだまだ解決しなければならない問題がいくつかあります」と大内管理本部長。

一つは人員構成の問題だ。九六年2月末の数字で、大庄の社員数は一二八六人、パート・アルバイトが九三七人。このパート・アルバイトの数字は八時間稼働に換算したものだが、それにしても、同業他社に比べると正社員の割合がきわめて高い。

「手づくりをモットーに、冷凍食品や加工食品はできるだけ使わないようにしてきたために、どうしても店が正社員中心の人員構成になってしまった。今のクオリティーの高さを失わない範囲で、既存店についてはパート・アルバイトの比率を高めていきたい。こうすることで、店のピークに対応した人の置き方がしやすくなるし、人件費負担も軽減できる。正社員には新規店でバリバリ働いてもらう計画です」

もう一つの問題はセントラルキッチンの導入だ。これは一番目の問題とも関係する。大庄にはこれまでセントラルキッチンがなく、ジャガ芋の皮むきから魚を三枚に下ろすのまで各店で行ってきた。ここに、手づくりにこだわる庄や独自のポリシーがあったわけだが、そのために正社員の比率が高くなり、人件費が重荷になるという弱点も生み出すことになった。

「手づくりの看板を下ろすつもりは毛頭ない。しかし、食材の一次加工までやるとなると店の負担が大きすぎる。そこで、遅くとも今年の年末までに一次加工専門の工場を建設する予定です。一次加工の負担がなくなる分、店では本来の調理に力を入れられるし、オーダーを受けてから品出しまでの時間も短縮されるはず。今後は、手づくりと速さをアピールしていきたい」

今年後半から来年にかけて、大庄は大きく変わりそうだ。

■データ

(株)大庄

平辰社長

東京都大田区大森北一‐二‐三

一九六八年4月創業

売上高二四〇億八四〇〇万円(九五年8月期)

▽二六八億円(九六年8月期計画)

資本金二九億六三五万二〇〇〇円

社員数一二八六人

パート・アルバイト九三七人(八時間換算)

居酒屋チェーン「和民」のワタミフードサービス(渡邉美樹社長)がこの3月末で、宅配お好み焼きチェーンの「KEI太」から全面撤退した。同じくお好み焼きハウスの「唐変木」も九店を閉鎖し、四店だけを残した。当面は新規出店の予定もないという。

三六歳の若き経営者である渡邉社長にとっては、生涯初めてともいえる“挫折”だが、意外に意気軒昂だ。

「KEI太には黒字の店もあったが、当社が目標にしている年二回転という総資本回転率に届かない。二〇%という対売上高営業利益率もクリアできない。これは“商売をやっても無駄ですよ”ということですから、全面撤退に踏み切りました」

“デリバリーブーム”に乗って店を増やしたKEI太だが、バブル崩壊後は逆に宅配料が重荷になって、売上高はピーク時の三分の一にまで落ち込んでいた。

今年度からスタートした五ヵ年計画では、メーンの事業である居酒屋「和民」への一本化を明確にしている。和民のキーコンセプトは“居食屋”。サラリーマン同士が飲むだけではなく、家族そろって飲みながら食べられるのが売り物だ。その点で、他の居酒屋チェーンとの差別化を図っている。

「和民への一本化といっても、和民自身が駅前型、ショッピングセンター型、住宅街型と三つに分かれている。バブルの時期には家賃が高くて出店の難しかった駅前型が、ここに来ての地価下落で出店しやすくなった。五ヵ年計画の、とくに前半の三年間は駅前型中心の出店を続けたい。一〇〇坪、一九〇席の店づくりで、今後は標準化を図っていく」と渡邉社長。

昨年度(九六年3月期)は駅前型を中心に一三店舗を新規出店。今年度は一五店、来年度は二〇店の新規出店を計画している。いずれも直営店だ。計画通りに進めば、来年度末には計八二店舗になる。新規出店を急ぐのは、「二〇〇〇年までに居酒屋チェーンの淘汰は完了する」という危機意識があるためだ。

「今までは店舗のタイプによって棲み分けが可能だったが、これからは地域一番店しか生き残れないでしょう。その最低条件が一人でも飲めて、宴会もできる店。だから一〇〇坪必要になってくる」(渡邉社長)

固定客づくりのポイントになるメニュー開発にも余念がない。四五日サイトで、季節感を盛り込んだ一二アイテムの手づくり特選メニューを投入。好評だったアイテムは、現在六〇余りあるグランドメニューに取り込んでいる。グランドメニューの改定は春と秋の二回だ。

「和民の一番のウリは冷凍品を一切使っていないこと。昨年度、当社は既存店ベースの売上げで対前年一〇五%を達成したが、他のチェーンの既存店は軒並み前年度割れ。冷凍品を使わない手づくりメニューが支持されたのだと分析しています」と渡邉社長は胸を張る。

アイテムの半分は店でパート社員が仕込み、残りの半分は従業員五~六人程度の提携工場で手づくりし、チルド配送しているものだ。しかし、チルドとなると、売上げのブレによるロス率がばかにならない。渡邉社長も「これが当社の最大の課題」と認める。

現在のロス率は売上高の〇・九%。九六年3月期の売上高が六六億二四〇〇万円だから、ざっと六〇〇〇万円になる計算だ。

「二年後には〇・三%にしてみせますよ。いま全社を挙げて、仕入れ、発注、在庫、調理なども含めて、システム開発に取り組んでいるところです」

そのシステム開発で目標にしているのが、ズバリ「天狗」だと渡邉社長は言い切った。

「マーチャンダイジング力というか、商品の絞り込み、商品力の高さ、価格、注文を受けてから出すまでの速さと、どれをとっても、今の当社は天狗さんには太刀打ちできません。向こうが居酒屋界のマクドナルドとすれば、うちはモスバーガー。天狗さんはサラリーマン中心、こちらはサラリーマンも家族も相手にしているのでアイテムを絞り込めないというハンデはありますが、いいところはどんどん取り入れたい。モスバーガーにマックの機能性が備われば、怖いものなしでしょう」

天狗に戦いを挑むため、株式の店頭公開の準備もすでに整っている。

■データ

ワタミフードサービス(株)

渡邉美樹社長

東京都大田区西蒲田七‐三三‐六

一九八四年5月創業

売上高六六億二四〇〇万円(九六年3月期)▽八八億六五〇〇万円(九七年3月期計画)▽一一二億円(九八年3月期計画)

資本金三億三七万五〇〇〇円

社員数一六〇人

パート・アルバイト二〇〇〇人

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら