居酒屋へHACCP的システムを生かす挑戦、衛生推進7原則を検証

1998.12.21 168号 5面

HACCPシステム(ハサップ)は、食品関係者ならだれでも口にする。しかし、HACCPを本当に理解している人々は非常に少なく、フードビジネス業界にいる小生としては、はなはだ残念な状況にあると言わざる得ない。そこで、本紙の小スペースを借りて居酒屋にHACCP的システムを導入しようとしている奮闘を記してみることにしたい。(8面まで)

●考え方

本文に入るその前に、小生の食品衛生論と考え方をまとめてみたい。ビジネスの中における「食品衛生」は、サッカーのゴール・キーパーと同じで「守る」ことのみが使命になりやすいが、攻撃力のない食品衛生ではお客さまや企業を守ることができない。

本来ビジネスは攻撃的なもの。その中に組み込まれている食品衛生も攻撃的な要素を持っていなければならない。ビジネスの中にある食品衛生は、(1)組織の中枢に直結していなければならない(2)管理部門であるかぎり経費と効果のバランスで実践しなければならない(3)機動力のある組織と少数精鋭が当たり前(4)期待される成果を出すには、システム論より徹底できる教育論などの確立が最初の一歩にすべきである(5)食品衛生は自主管理が当然(6)検証は定性より定量で判断すべきもの(7)その企業の理念と実務的な食品衛生推進は、担当者一人の結果を出せる能力で決まる。

以上が小生の企業における「衛生推進の七原則」であるが、すべての原則に攻撃力を持たせる工夫が要になることを補足しておく。

今回のテーマであるHACCPシステムは、私の提唱する「攻撃的食品衛生論」に肉付けをする非常に良い道具になりえる。

●善悪の判断

現在ビジネスは、損得を中心に動いているが、行き過ぎれば企業の信用をなくし、また、損得勘定を極端に無視すれば企業の存続が危うくなる。それでは、株主に対しても責任を全うできなくなる。

本来、ビジネスは判断基準を善悪で判定すべきものと小生は考える。しかるに、近ごろの産・官・学は新聞紙上をにぎわす事件を多発し、社会人としての反省能力が逸脱し、是正措置が十分に機能していないように見うけられる。

われわれは、それこそ経営全般にHACCPシステムの導入が必要ではないかと思われる今日このごろである。しかしながら、この現状で少なくともわれわれの業界は、あるいは食品衛生の分野においては、いつまでも判断基準を善悪で裁きたいものである。

ここで紙面を拝借し、食品衛生の本質・中心・最重点を以下にまとめておくので、原点に返らねばならない時に思い出してほしい。

・食品衛生の本質は↓「飲食に起因する衛生上の危害の発生の防止」

・その中心は↓「食中毒の防止」

・その最重点は↓「二次汚染防止」

なお、食をビジネスにする会社ならば、食品衛生は必要条件の御三家に入ることをお忘れなく。手抜きのビジネスはケガのもとになろう。

●居酒屋風に料理してみる

われわれは、宇宙食の安全確保のためにアメリカで開発されたHACCPシステムこそ、従来のシステムより企業に食品衛生の戦略および戦術のなかへ同化させることが重要であると考えた。

このシステムをこのまま採用して「居酒屋・宇宙食」を作っても仕方がない。宇宙食における安全確保の良い点を利用し、大衆料理に合い、客単価に合い、実務的に可能性のある要素を取り出し、企業のもつ実践能力に合わせたレベルで段階導入をすることこそが大事であると考えている。

そこでわれわれは、HACCPシステムの五ヵ年計画を実施することにした。その概要を以下に簡潔に述べてみる。

システム導入の目的は、食の生物的、化学的および物理的な安全確保により飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止する(食の安全は、今、パラダイムの変化を求めている)。

前提条件としては、経営者から一般従業員まで本システムを理解し、チームを編成し、目的遂行権限を付与し、関係者全員参加を原則とする。なお、本システムの実行は、ブレーク・スルー思考法を活用する。

方針としては、HACCPシステム導入の完結を三段階方式(導入期、黎明期、完成期)とし、実務を大事にした長期計画(期間は三年から五年)の現場中心主義を貫く。

【導入期】 目標は、レシピをHACCPのフォーマットに切替えるが、従来法の整理整とんである。

(1)企業がHACCPシステムの全体像を大ざっぱに把握する(2)大ざっぱなHA(細菌)とCCPを確定し、その「モニタリング」を運用する(3)HACCPの方法論の中心であるレシピを「調理衛生レシピ」に替える(4)導入初期の実践により現場に密着した「各種マニュアル」を作成する(5)HACCP初期システムの「各種フォーマット」を構築させる(6)HACCPシステムに関係する規程、マニュアル、記録簿、その他の定置管理。

【黎明期】 目標は、各メニューのHA(危害分析)とCCP(重要管理点)を確立し、把握し、システム本来の目的に方向転換させる。

(1)各製品に対するHAとCCP(1o r2)を分析確定しHACCPシステム適用手順一二段階の関係を認識し、遵守する(2)「衛生管理規程」立案し、各種マニュアルをHACCPシステムとして完成度を高め、現場重視型から「システム本来の目的」へ方向転換させる(3)各種モニタリングの記録を解析し、適切な基準・是正・処分方法などを確立する(4)HACCPチームを含む関係組織を見直し、企業本来の組織目的に同化させる。

【完成期】 目標はHACCPの検証と記録のシステムを構築し、HACCPシステムの最終目的「農場からお客さままで」を確立。

(1)導入期と黎明期から得た記録による全体像をチームが検証し、HACCPシステムが「仕入れから提供まで」をカバーしているかを確認する(2)仕入れ先へHACCPシステムのお願いと報告書の整備と提出を要求する(3)当初の目的である「食の安全確保」が企業として連動すべき機能と目的を持っている包括システムになっているかを検証し確定する。

●ブレークスルー思考へ

ここではシステム論より、いかにビジネス最前線の現場に重要管理点(決してCCPのことではないぞ)を落とし込むかについて議論したい。

われわれは、学会、研究会、シンポジウム、セミナー、各種会議などで聞くことは、ほとんど実務的でない小規模なデータ、学問的推測、アメリカが現在こうだから日本も将来こうなるであろう? わけのわからない型にはまったグローバル・スタンダードなどである。

末端で欲しいのは、いろいろな情報の活用法であり、それによって成果が得られるかどうかなのである。このことは、先ほどらい述べてきたことであり、経営者が損得でほとんど判断することに由来する。では、このHACCPシステムを中小の飲食店で、どのように活用すればいいのか? そこに焦点を当てて考えてみましょう。

一番大切なこと、それは5Sの「しつけ」である。ではこの「しつけ」、どうすれば店舗で働く従業員に「追っ付け」できるか。ビジターはOJTでOK。しかし、このOJTをちゃんとできない管理者が意外に多いことを承知しておかなければならない。マニュアルがあるだろうと思われる人がいれば、それは現場を知らないど素人管理者である。

マニュアルは、ある程度の常識を持っている普通の人だけに通じる「もの:本」なのである。働いている人は本来勉強がきらいな人たちであることを忘れてはならない。結果、ここで言う「しつけ」の意味がおのずと分かるだろう。

ならば、話題をちょっと変えて、彼らの組織人としての思惑をチェックしてみよう。それは、彼らの大半が「のれん分け」「独立」を希望している。また組織人として「幹部」になりたい人たちもいる。しかし、ただの「フリーター」もいるのだ。ある程度の「夢」を持っている従業員ならば山本五十六的なOJTで結構やっていける。それ以外の従業員を「なせばなる」と教えていかなければならない。これが大きな壁になる。

情熱をかけて教えても、すぐ仕事に流され、改善を忘れ、単純な段取りだけが仕事と思う人たちがいる。そんな彼らの考え方=思考法を変えてしまわなければならない。だが、そんなうまい話があるわけがない。しかし、それがある。それはブレーク・スルー思考である。

ブレーク・スルー思考の著者、ジェラルド・ナドラーは、「万物はシステムである」と解く。ならば、システムとは、なんぞや。システムとは、複数の要素を持ち、お互いに連動し達成すべき目的・機能を持ち、全体性・包括性を特徴とする総体である。このシステム感を認識する認識論がブレーク・スルー思考の土台となる。そして次に述べる「七つの原則」に続き、アプローチのPTR方式に焦点を当てている。

◆「七つの原則」=(1)独自性の原則(2)目的の原則(3)理想システムの原則(4)システムの原則(5)必要情報収集の原則(6)関係者関与の原則(7)変革継続の原則、以上の七つである。

◆「アプローチはPTR方式」=(1)目的の目的を問う(2)理想案を創造し、夢とロマンを語る(3)具体的なシステム化、夢をカタチにする。

さて、そろそろ読者の皆さん、私と一緒に、新たな船出に一歩踏み出してみませんか。

●自主管理

われわれの食産業に従事している人々は、お客さまの安心・安全の確保を企業がやる、すなわち、君らがやるのが当たり前の話。食品衛生法が変わろうが、変わるまいが、自主管理して提供商品の品質保証があって、提供商品に価値が生まれるわけである。

ここで注意しておくことは、自主管理だからこそ適当であってはならない。企業理念や担当者のプライドにかけてお客さまから苦情をもらわないようにしなければならない。そのために、ここまで安全の総論、損得でなく善悪の判断、HACCPシステムの飲食店への落とし込み方針、そしてブレーク・スルー思考まで述べてきた。企業は必ず成果を求め、PLに反映させPL問題を起こしたくはないのだ。

だからといって、費用対効果で金をタップリ使えるわけではないし、居酒屋だから多少の事故はしょうがないと、お客さまにも言えない。そこで、自主管理のアプローチを考えてみる。

PTR方式的に試みてみよう。まず、最初のP(目的の目的)は、食中毒を起こさない。その目的は、お客さまの命を守る。その先にあるものは、その結果、会社の信用を築き、株主も守ることにつながる。

次にT(理想案の創造)は、おいしい料理を提供し、お客さまに喜んでもらい、満足感を充足していただくひとときをプレゼントする。間違っても料理や、サービス、雰囲気、衛生などで、お客さまに肉体的・精神的な健康に関するストレスを提供してはならない。すなわち、不満足、不愉快、不健康、不公平、不平等、不潔、不快、不安、不信、不備、不遜などの「不」をとりましょう(太りましょう:「不」をとりましょう)。

最後にR(具体的なシステム化)は、HACCPシステムである。

●お客様がモノサシ

ここらで、HACCPシステム的な概念を利用して、居酒屋、そば屋、すし屋、日本料理、中華料理、洋食など飲食店の「食材」の流れを考えてみる。

〈発注〉↓〈仕入れ〉↓〈検品〉↓〈保管・保存〉↓〈下調理〉↓〈本調理〉↓〈盛り付け〉↓〈提供〉↓〈下膳〉↓〈保証+α〉

このフローチャートからHACCPシステムの七つの原則と適用手順を頭に浮かべながら簡単にまとめてみることにする。

危害防止の第一歩は、仕入れと検品にある。仕入れは、信用できる経営者と正直な従業員がいる店から仕入れること。そしてHACCPシステム導入の趣旨を説明し、協力をお願いすること。検品は、各社の伝票を利用して簡潔に済ますこと。しかし、HACCPのポイントを外さず、納品・検品時間、官能的鮮度チェック、温度実測や担当者のサインは必要である。

保管・保存は、各保管場所や機器の温度記録が中心になる。下処理や本調理は、調理ルールにのっとった方法を的確にやれば、基本的に問題は発生しない。そこにCCPとしての温度実測を芯温で適当に計ればいいだけである。厨房で作り上げた料理などは、賞味期間を原則二日間とする。もちろん調理人の衛生知識と段取りなどの腕によって違いがあるのは承知している。ここでは簡潔なルール説明としてとどめておく。

盛り付けは、即提供と解釈すること。ここでの時間が経過することは、リスクを高めることにつながる。配膳・下膳での注意は、生食料理の提供とTT管理にある。そして卓上調理の料理は、食べていただくタイミングのTT管理がCCPになる。

最後の保証+αは、食べていただいた後、どのくらいお客さまの健康を保証すれば良いのかという問題分野になろう。このテーマは、一度関係者と議論すべきであろう。小生が考えるには、通常なら二日間でいいはずである。しかし、病原微生物の逆襲で「食品衛生」なのか「公衆衛生」なのか、はたまた「環境衛生」なのか線引きができなくなってきた。

現在、病原大腸菌O157によって食材など二週間の冷凍保管を義務づけられている分野もある。さらに、これからの先を考えれば、保証期間の+αはますます長くなるであろう。考えものである。だからこそHACCPシステムの採用をしなければならない。

だといって、オーバースペックな食品衛生では役に立たない。フードビジネス業界で「標準的な物差し」を作成すべきである。ついては、飲食店の衛生管理基準は、お客さまの満足できる黙認レベルがどこにあるかを検証しなければいけない。このテーマも多くの人々と議論しなければいけない問題である。

今回は、食材だけに限定したが、ほかにも調理器具、容器、人、設備などフローチャートにしてHACCP的にまとめなければならない。

●モニタリング道具とは

食材のフローチャートから、調理師などが厨房で簡単に使えるモニタリング道具を考えてみよう。

現場における多少の無理難題は覚悟の上で実施することが肝要である。なぜならば、従来の食品衛生の「パラダイム=過去の枠組み」を崩壊させ、新しくシステム構築する「夢をカタチ」にするのだから。このチャンスに恵まれた衛生担当者は、二一世紀維新と思うことである。

しかし、世界的に食料は不足する傾向が大であるから、むやみに食品を廃棄処分はせず、加工する工夫をしなければならない。われわれの科学と技術は、お客さまとそのビジネスに貢献すべきためにある。

そこで、われわれは、いろいろなフローチャートからみた「HA=衛生上の危害分析と予測」と「CCP=HAの撃退する方法など」を確立させ、そのCCPを有効に活用するための管理基準を遵守しているかのチェックのためにモニタリング道具を考えてみた。

◆「温度の管理用道具」(1)検品用には、スピードを武器にした放射温度計(2)保管用には、最低温度と最高温度がレコードできる隔側温度計(3)下処理・本調理には、食品の中心部(マイナス三〇度C~二〇〇度C)が測定できる芯温計(4)配膳後の管理には、放射温度計や芯温計(5)食器洗浄機の殺菌チェックに、放射温度計。

◆「汚れ具合の管理用道具」(1)器具・容器・機器の洗浄チェックには、ATP測定機やオイルレッドなど(2)手指の洗浄チェックには、ATP測定機や簡易的大腸菌群数。

◆「鮮度の管理用道具」(1)官能学的には、目視を中心にして、補助的要素で触覚と嗅覚(2)理化学的には、K値と 比、VBN、AV、ペーハー、ビタミンCなどの測定(3)細菌学的には、目安として簡易的な一般生菌数と大腸菌群数。

◆「料理の管理用道具」(1)加熱調理には、芯温計(2)揚げ物には、AV(酸価)(3)酢の物には、ペーハー(4)味関係には、糖度計、塩分計、屈折計など(5)物性には、クリープメーターなどいろいろ。

●「チクリスト」とは

飲食業として大きなクレームは、食中毒の発生であろう。この時、厨房の担当者が、そのクレームについて原因追求や何の解決策もなかったら非常に情けない話である。いつも元気がある調理人なのに、クレームが発生すると途端におとなしくなる調理人が多いのがこの業界である。

しからば、クレームを起こした調理人は、そのクレームについて最低限度の説明を論理的にお客さまと社内にたいして報告しなければならない義務がある。そのいざという時の論理的説明の資料がチェックリストとしての記録となる。しかし、現場中心主義である実行可能な各種のチェックリストのポイントは、何であろうか。

例えば、検品チェックにおいては、現在でも個数チェックなどに利用している納品伝票を使えば良い。その納品伝票に、検品時間、検品者のサイン、鮮度状態、温度実測、賞味期間などを朱で書き込めば良いのである。もちろん納品伝票を束ねて、その上にチェックリストの表紙をつけてとじれば良いのだ。

難しく考えてはいけない。また、安易に考えてもいけない。保管・保存チェックリストは、各種保管庫の温度実測を中心に考え、さらに、各料理などの使用期限をラベル表示しておけば良い。調理関係のチェックは、殺菌剤の使用濃度と時間、加熱調理の食品の中心温度を測定、ペーハーチェック、糖度や塩分濃度、調理にとって重要なTT管理など記録できればOKである。

要するに、記録はわれわれの業界において、「明日のための第一歩」になり、第三者が納得できる状態を作り上げねばならない。一気に背伸びをしてもいけない。自分たちの能力に合ったシステムで実施すべし。

((株)大庄食品衛生研究所・安藤洋次)

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