忘れられぬ味(27)マルトモ・明関和雄社長「タイのフカヒレスープ」

調味 統計・分析 2000.06.16 8703号 2面

ここに忘れられない味として南国のシャークフィンスープのことを書かせてもらいます。味覚とは実にデリケートな感覚で、その時の体調や周囲の環境によって、微妙に感じ方が異なってくるものです。特にわれわれは戦前戦後の食料難時代に育った世代ですから、「何でもいいから腹一杯食べられる」ことが最高のぜいたくでした。当時はこの満足感こそが「うまい」という感覚であり、それが今だに残っているためか、つい食べ過ぎ、後から反省することしきりであります。

一七、八年前の話になりますが、われわれがチルド食品の分野に進出した関係で、タイ国からの原材料調達が急激に多くなり、タイの水産会社を訪問視察したことがありました。夕食に現地会社の方々が案内してくれたのが、「スカラ」という名前のフカヒレスープの専門店(タイに行かれた方ならよくご存じの店だと思います)。大きなレストランと違い、こぢんまりとした木造三階建ての店で入口から調理場がよく見え、中では十数名のコックが調理に大忙し。その上店内は満席で、予約をしていないと席の確保が難しいほどの盛況ぶりでした。

出てきたスープは「ゆきひら」のような鍋で、中には大きなフカのヒレが丸ごと一枚と椎茸などの具材がたっぷり。味は中華風とタイ風の中間といったところで、これに薬味の「パクチ」を少々入れるとまさに絶品。おまけに「コースター」というタイビールのサッパリした味とほどよく調和し、またたく間に一杯ペロリと平らげてしまいました。

この様子を見ていた勧め上手なタイ人が、「もう一杯やりましょう」と追加をしてくれ、これも全部ペロリ。後で聞いた話では二杯も食べたのは私だけらしく、驚くと同時に随分喜んでくれたようです。

その後、訪タイは二、三度ありましたが機会も無く、昨年2月、久しぶりにめぐり会えると胸をときめかせて訪れましたがこれがガッカリ。十数人のコックは腕組みをして何もやっていない。店はガラガラで出てきた料理はフカヒレを探さなければならないほどのお粗末なもの。値段だがボリュームアップしており、バブルのはじけたタイ経済を間の当たりにした感がありました。

タイ経済と、「忘れられぬ味」となったあのフカヒレスープの復興を願いつつ、南国タイを後にしたのです。

(マルトモ(株)代表取締役社長)

日本食糧新聞の第8703号(2000年6月16日付)の紙面

※法人用電子版ユーザーは1943年以降の新聞を紙面形式でご覧いただけます。
紙面ビューアー – ご利用ガイド「日本食糧新聞電子版」

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら

書籍紹介