ヘルシートーク:歌舞伎役者・俳優 市川海老蔵さん
武士としての誇り、体面、家族愛–。人間にとって大切なものとは何かを、いのちを懸けてすべての者に問いかける映画『一命』。日本初の3D時代劇に挑んだ主演の市川海老蔵さんにお話を伺いました。
◆歌舞伎と武士に通じる、“本音と建前”
三池監督からこの映画のお話をいただき、原作(滝口康彦著『異聞浪人記』)や台本を読んで「面白い」と感じると同時に、どっしりとした時代劇に挑戦したいと思いました。
私が演じた半四郎は、傘貼りで生計を立てながら実娘と義息を育ててきた浪人です。孫が生まれ、初めて幸せを感じていた矢先に、不幸が起こってしまう。幸せを望む自分と、武士としての誇りを捨てられなかった自分。“本音と建前”という世界観が、武士の世界にもあるということに興味を惹かれました。
半四郎は、武士とは何かを自らに問い、対峙する家老・斎藤勘解由に問い、周りにいる武士にも問いかける。次世代の武士社会に一石を投じるとともに、気づきを提示しているのです。
◆ひとつのまんじゅうを二人で分けて
この映画で描いているのは、家族愛でもあります。半四郎が子どもたちにおかゆを出すシーンでは、自分の分を気にさせまいと「所用で出かけてまいる」と嘘をつきます。まんじゅうを食べるシーンでは、一個を半分に分けて「二人で食べた方がうまい」と娘に差し出したり…。食事というコミュニケーションから深い愛情が伝わってきます。
撮影で、幼少期から大人になるまでの娘と息子を見届けてきたため、息子に初めて会う回想シーンを後で撮った際は、思わず涙が出てしまいました。その行く末を知っているので…。
井伊家の庭先での大立ち回りでは、半四郎の命を懸けての戦いの想いに気を使いました。3Dカメラが1台しかないため、庭で武士たちに囲まれるシーンは、さまざまな角度から何度も撮影しましたね。
◆野菜中心の生活で、いつも元気に
撮影場所の京都では、大好きなおでん屋やすっぽんのお店、天ぷら屋によく行きました。ぎんなんのおでんがおいしかったですね。
僕は普段、肉や魚はあまり食べず、野菜中心の食生活です。ブロッコリーやトマトなどはよく食べますし、タンパク源として豆をできるだけ取るようにしています。枝豆や空豆などの季節ものや納豆、小豆などですね。
100円で手軽におすしが食べられ、お金を出して水を買うという現代の感覚は「一命」の時代とは違いますし、食に不自由することのないありがたさを感じます。映画ではおかゆやおまんじゅうのほか、孫の「お食い初め」などの食事シーンに家族の絆が描かれていますので、ぜひ、注目してもらいたいですね。
●プロフィル
いちかわ・えびぞう 1977年東京都出身。83年、歌舞伎座にて『源氏物語』の春宮で初お目見得。85年に七代目市川新之助を襲名し、2004年に十一代目市川海老蔵を襲名。『十一代目市川海老蔵襲名披露 歌舞伎パリ公演』(04)のほか、ロンドン、ローマ、モナコなど海外公演に多数参加。03年にNHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』で宮本武蔵を演じるなど時代劇、現代劇にも挑戦している。フランス芸術文化勲章シュヴァリエ受章(07)など。
◆10月15日(土)全国ロードショー「一命」(2D・3D同時公開)
Story
江戸時代初頭、太平の世が訪れたものの大名の「御家取り潰し」により浪人が巷にあふれ、切腹を申し出て大名屋敷から金子や仕官を得ようとする「狂言切腹」が流行していた。井伊家を訪れ、切腹を願い出た浪人・津雲半四郎(市川海老蔵)に、家老・斎藤勘解由(役所広司)は以前同じ理由で門をたたいた若浪人・千々岩求女(瑛太)の顛末を話し始める…。
監督:三池崇史 配給:松竹 キャスト:市川海老蔵 瑛太 役所広司 満島ひかりほか
(c)2011 映画「一命」製作委員会