ヘルシートーク:俳優・中井貴一さん

2010.05.10 178号 05面

 エリートサラリーマンを辞めて、49歳で故郷島根のローカル電車の運転士になった男の物語『RAILWAYS』。この話題作に主演した中井貴一さんに、映画を通して伝えたいことや、島根ロケのおいしい思い出を聞いた。

 ◆素朴なだけじゃない、現代の社会問題が詰まった作品

 最初に脚本の第一稿を読んだ時、登場人物がみんなすごくいい人たちすぎて、ドラマとして成立しにくいのではないかと思ったのです。もっと人間の毒や苦悩を表現した方が良いのではないかと監督やプロデューサーとじっくりプロットを練り直しました。

 その結果、家庭を顧みず、出世のためには工場のリストラもいとわなかった大企業のエリートサラリーマンが、子どもの頃の夢を叶えるため、故郷に戻ってローカル電車の運転士になり、家族の絆も取り戻していく、というなかなか興味深い物語が完成したと思います。

 この映画には、リストラ、バラバラになってしまった家族、田舎でひとり暮らす老いた親をどうするのかといった、現代の社会問題がいっぱい詰まっています。定年まであと10年、50歳を目前にした主人公の転身が、これから残りの人生をどう生きていくべきか思いあぐねている同世代の人たちに、少しでも示唆と勇気を与えることができれば嬉しいですね。

 ◆地元の人たちの協力なしには完成しなかったと思う

 島根を走るこのレトロな「一畑電車」はいいですよ。みしみしときしむ木の温もりがあって。でも車両よりもっと感じ入ったのは、この電車をめぐる地元の人たち同士の距離の近さ。ある駅の真ん前に家があって、控え室にお借りしてたんですけど、そのお宅の方が子どもの頃、風邪をひいて学校に行くいつもの時間に出てこなかったりすると、駅員さんが必ずホームから大声で「具合悪いの? 乗らないの?」と声をかけてくれたとか、そういう地方ならではの触れ合いってほほえましいなぁと。

 今回、ロケで島根に長く滞在しましたが、地元の人たちとのいい思い出がたくさんできました。

 ロケ隊が3週間ぐらい泊まっていたホテルから、わずか5キロ先のホテルに移ることになったのです。その出発の朝、ホテルスタッフ全員が号泣しながら見送ってくれたり(笑)。撮影現場近くのおばあちゃんが、毎日撮影ご苦労様ですね~といろいろな物を差し入れて下さったことも。実際の「一畑電車」の運転士さんや、撮影用にお借りした民家の方々など、まさに地元の人たちの協力なしには、この映画は完成しませんでした。出来上がりは本当にアナログで、『アバター』とは対極の映画(笑)。でも島根の大自然や人々の温かさが、忘れかけている日本の原風景をきっと思い起こさせてくれると思います。

 ◆島根で一番おいしかったのは「桃ちゃん」と「メロンちゃん」!

 島根には地産のおいしい物がたくさんありました。「仁多米」というお米は、甘味が強くもっちり。「十六島のり」は大変希少な岩海苔。どちらも東京ではなかなか手に入ることのない一品です。しかし、なんといっても一番思い出深いのは、「桃ちゃん」と「メロンちゃん」! もう名前だけで「えっ何?」って思うでしょ。

 ある日、台本の打ち合わせで監督たちと地元の喫茶店に入ったら、ショーケースの中に桃が丸ごと1個のったタルトが並んでたんですよ。「桃ちゃん」というネーミングに惹かれて、男3人で食べてみたら、これがおいしいのなんの! フレッシュな桃の中には、地元の牛乳を使ったカスタードクリームが入っている。桃ももちろん地元の採れたて。

 で、次にその店に行ったら、今度は「メロンちゃん」があったんです。マスクメロンを半分に切って中身を出し、スポンジとカスタードクリームを入れて、その上に取り出した果肉がのっている。これがわずか900円。マスクメロンなのに! いいメロンを仕入れた時しか作らないそうで、すぐ近くの農家から仕入れるから安くできるんだそう。いや~地産地消って素晴らしいですよね。地方ロケはこういうものに巡り合えるから楽しいですよ。

 ●プロフィル

 1961年東京都生まれ。デビュー作『連合艦隊』(81年)で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。TBSドラマ『ふぞろいの林檎たち』(83年)や市川崑監督『ビルマの竪琴』(85年)、NHK大河ドラマ『武田信玄』(88年)といった話題作の主演を務める。近年の主な出演作に『燃ゆるとき』(06年)、『どろろ』(07年)、『次郎長三国志』(08年)、CXドラマ『風のガーデン』(08年)などがある。

 ●「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」5月29日(土)全国ロードショー

 日々の忙しさから、妻や娘を顧みない生活を送っていた男。そんな息子に田舎からひとり想いを馳せる母。ある日、母が病に倒れたという連絡を受けた彼は、子どもの頃の夢を叶えるため、一念発起する。それは、故郷の島根で電車の運転士になることだった。50歳を目前にして自分の人生を見つめ直す男とその家族。やがて、夢に挑戦するその無謀な姿が、バラバラに離れた家族の心を引き寄せていく–。

 キャスト:中井貴一 高島礼子 本仮屋ユイカ 三浦貴大 奈良岡朋子

 製作総指揮:阿部秀司

 監督:錦織良成

 主題歌:「ダンスのように抱き寄せたい」松任谷由実

 (C)2010「RAILWAYS」製作委員会

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