ようこそ医薬・バイオ室へ:話題のカルニチンって!?
最近、TVコマーシャルで「カルニチン入り」という言葉を聞くようになった。ドリンクやゼリー、ソーセージなどにもカルニチンが入った商品が発売され、「ダイエットに効くかも!?」という今年の注目株だ。
このカルニチンは、もともと日本では医薬品として四〇年以上も前に認可され、慢性胃炎やカルニチン欠乏症の薬として使われてきた。二〇〇二年12月の規制緩和によって食品に分類されてから商品開発されたものが、いま販売を開始したところだ。
で、このカルニチンは二つのアミノ酸、リジンとメチオニンから構成された成分。脂肪酸が筋肉細胞内のミトコンドリアに運び込まれて、エネルギー(ATP)を作るわけなのだが、その脂肪酸をミトコンドリアまで導く働きをする。つまり、カルニチンがないと、脂肪酸がミトコンドリアまで行かないため脂肪が燃えず、脂肪が燃えなければ体重は減らないことになる。
すでにダイエット用健康食品としてカルニチンは販売されているが、理論は前述の通りで、二〇代をピークにして体内のカルニチンは減ってくるため、中年以降にダイエットしてもなかなか減量できないのは、体内のカルニチンが不足しているからだ、というのだ。外からカルニチンを十分補給してやれば、筋肉内の脂肪がより多く消費され、それが体脂肪の減少につながるだろうというのが、その理論的根拠。実際、カルニチンを経口摂取すると血中カルニチン濃度が上昇したり、一〇〇人の肥満者に投与したら体重が減少したという報告もあるらしい。
カルニチンは通常、肉などから一日当たり一〇〇~三〇〇ミリグラムぐらい摂取することができるし、体内でも二〇ミリグラム程度合成しているものの、確かにダイエットなどで肉をあまり食べない人はリジンとメチオニンの摂取量が少なくなって、カルニチン不足に陥っているかもしれない。つまり、肉類を完全に除いたダイエットでは、体内の脂肪が燃焼場所であるミトコンドリアまで運ばれずに、いくらダイエットしても脂肪は減らないという、意味のないダイエットになってしまう。
できれば、ダイエットとはいえ、肉も食べて、有酸素運動をして脂肪燃焼を図ることが必要なようだ。ところで、肉といっても霜降り肉を食べては何をしているのか分からなくなるので、カルニチンの含有量の多い羊肉がお勧めだ。羊肉一〇〇グラム中に二〇〇ミリグラム程度も含まれていて、牛肉の約三倍、豚肉の約九倍といわれる。
また、カルニチンは体内でアセチル‐カルニチンにも変わるが、このアセチル‐カルニチンは脳に多く含まれている。脳のアセチル‐カルニチンが不足すると、脳細胞が壊れるスピードが早まり、痴呆症になりやすくなるのではないかともいわれ、カルニチンを与えたネズミの学習能力が高まったという結果も出ているらしい。
まあ、いいことずくめのカルニチンだが、残念ながら、いまのところ、減量効果にしても、痴呆防止にしてもエビデンス(証拠)がない。実際、ヒトに投与して体重が減ったという発表にしても、プラセボ(偽薬)を用いて、きちんとした実験計画に基づいて行わないと信頼性が低くエビデンスとは言い難い。ネズミの実験にしても、ネズミとヒトは随分異なるので、「ご参考」という位置づけだ。
とはいえ、医薬品としての安全情報はそろっているので、あとは減量に関して、痴呆予防に関して真のエビデンスをそろえる努力を企業側は行ってほしい。なお、当然取り過ぎは禁物で、胸やけ、吐き気、顔面浮腫などの副作用が報告されており、そのため厚生労働省も一日の上限を一グラムとしている。
で、「明日は早速ジンギスカンにしよう」と言うと、妻は「マトン、好きちゃうねん」と言って、トマトジュースに酢を入れて飲んでいた。どうもテレビで「酢を飲むとやせる」と言っていたようだ。
(バイオプログレス研究所 高橋清)