だから素敵! あの人のヘルシートーク:薬膳アドバイザー・謝敏キさん

2004.05.10 106号 4面

おいしく、おしゃれで、分かりやすい。薬膳料理界の新潮流をリードする東京・銀座の「星福薬膳料理店」。月2回開催の勉強会「星福薬膳倶楽部」も会員数250人超の大人気だ。オーナーであり薬膳アドバイザーの謝敏〓(しゃ・びんき)さんに、生まれ育った上海時代の思い出、“おふくろの”薬膳や、日々実践している食養術について聞いた。

中国には「水能浮舟、亦能沈舟、食能養人、亦能傷人」という諺があります。つまり水が舟を浮かすことも沈ますこともできるように、食べ物も人を養生させることも病気を引き起こすこともできるという教えです。

“食”こそ不老長寿の夢を叶えてくれる特効薬。いまでも中国の人々は、風邪をひいたらネギやショウガのたっぷり入った熱いスープを飲むとか、梅酒を飲めば下痢が治るなどの食事療法をごく日常的に実践しています。私の家でもそうでした。

私が生まれたのは、中国の上海という街。七人兄弟の末っ子で、母が四二歳の時の子供だったせいか、幼い頃から身体が弱く、病気がちで両親を悩ませていました。

その頃、母がよく作ってくれたのが「酸辣湯(サンティタン)」です。ニンニク・生姜・ネギ・キノコ・豆腐などで作る、中国に古くから伝わるスープで、飲むと身体がポカポカ温まります。また香り高い陳皮(チンピ)とちょっと苦い黄連(オウレン)に黒砂糖を加えたお粥もよく作ってくれました。ほの甘いこのお粥が大好きで喜んで食べているうちに、胃腸が丈夫になり下痢症も改善され、小学校高学年になると健康優良児になっていました。

食べて健康を作る。私は子供の頃から知らず知らずのうちに“おふくろの味”で薬膳を実践していたのです。私の店でも、旬の食材と漢方素材・山海珍味を組み合わせ、食物の温・熱・涼・寒の四性で常に身体の陰陽バランスを整え、酸・苦・甘・辛・鹹の五味で五臓を補う、おいしく健康を保つ食事をめざしています。

五月は養心安神(ようしんあんしん)がキーワードになります。気持ちが不安定で落ち込んだりする人が多くなるこの時期には、気の乱れを正す食材、ハスの実や高麗人参などを料理に取り入れるといいんです。

また、食べて汗をかき、ストレスを発散するのもおすすめ。汗って大事です。発汗は、身体に余っているゴミやアブラを捨て脂肪を燃やし、心を解き放つ良き方法なんです。スポーツや入浴もいいですが、食事での汗も気持ちいいですよ。

汗と便、この二つがきちんと排泄できない人は新陳代謝が悪い、つまり不健康。ただし汗にはイイ汗と悪い汗があります。イイ汗がかければストレス発散、老廃物が出てきた証拠。でも悪い汗をかくのは元気が漏れている証拠と考えられます。

そのチェック方法は、舐めてみること。イイ汗は渋くてしょっぱい。悪い汗である「虚」の汗には味がない。「虚」とは精力が弱まっている状態。例えばひどい寝汗とか、じっとしていても止まらない汗、高熱時の汗など。自分の汗・子供の汗・老人の汗、舐めてみればその人の体調がわかります。

こうした微妙な病気の前兆に気づき、食事で食材の効能を上手に取り入れ病気を予防するのが薬膳の基本。例えば私は風邪の初期症状である悪寒・肩こり・鼻づまり・だるさ・関節痛などが現れると、すぐ風邪薬は飲まず、私流の速効法を試みます。

ラーメン屋に入り、味噌ラーメンにおろしニンニク・コショウ・豆板醤を加えアツアツで食べ、スープまで飲み干します。または生姜湯やシソ入り日本酒の熱燗を飲み発汗させても、軽い風邪なら治ります。飲み過ぎで調子の悪い日は、そば屋で、もりそばに大根おろしを添えてもらいます。

薬膳は難しいものではなく、このように身近な食材をうまく取り入れた食べ方。ふだんの生活に薬膳を。自分の身体を知り、食材の効能を知ることによって、日常の生活をより快適に過ごせるようになりますよ。

◆謝さんもおすすめ 夜は生大根 朝は酢生姜の養生法

大根の性は「寒」で陰に属し、味は「辛」「甘」。「消化促進・整腸・降血脂・通便・沈着・体内の気を整える」という効能があります。「陰の時間」である夜、寝る前に、生大根を皮つきのまま二センチ程度の厚さに切り二~三切れ食べると、消化力を高め、食物繊維が豊富で腸を掃除してくれ便通を助けます。また鎮静効果で熟睡もできます。

一方、生姜の性は「温」で陽に属し、味は「辛」。「発汗・健胃・興奮・食欲増進・脳の働きを高める」効能があります。「陽の時間」である朝、起きたときに、黒酢につけた皮つきの生姜を薄切りにして二~三枚食べます。食欲がわき一晩眠っていた身体を興奮させ血の流れをよくし頭がすっきりして元気に仕事ができます。ぜひお試しを!

◆プロフィル

しゃ・びんき 1953年上海生まれ。84年来日、86年東京大学薬学部薬品作用学教室に研究生として入学。87年味の素(株)入社、星福薬膳料理店開店。88年中国経典栄養研究協会会員。2003年日中医食養学会顧問、日本東方医学会評議員。04年(有)星福薬膳企画設立、代表取締役社長就任。現在、薬膳アドバイザーとしてテレビ・新聞・雑誌や、日清フーディアムセミナーはじめ各地での講演で活躍。著書『簡単!毎日の薬膳』(PHPエル新書)、『家庭で楽しむ薬膳薬酒』(金園社)など。

◆星福(シンフウ)薬膳料理店

「星」は自然界・宇宙・季節の変化を「福」は人間の腹・身体や内臓を意味する。「星」と「福」のバランスを整え自然界とのリズムを合わせ健康になろうとの思いがこめられている。

東京都中央区銀座6-9-9 かねまつビル6F

電話03・3289・4245

「シンフウ」ホームページには正解すると、銀座マダムに大評判の特製・杏仁豆腐が当たる薬膳クイズもある。

http://www.xingfu.co.jp/

<第壱問>

OLの斉藤さんは最近パソコンを使った仕事が多く、目が大変疲れています。では目の疲れに良いのは次のどの生薬でしょう?

枸杞子(クコシ)/霊芝(レイシ)/冬虫夏草(トウチュウカソウ)

◆「簡単! 毎日の薬膳」

4月23日に出版された『簡単! 毎日の薬膳』(PHPエル新書)は、おいしく食べて身体の中から元気になる「食養」の知恵がぎっしり。家庭でできるやさしいレシピや食材のカラー解説もあり、手元に置いておきたい好著。

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