初秋の不眠症 遠因は夏の生活にあった 崩れた体調の改善が克服への近道
そろそろ夜の長さを感じる季節になりました。夏の間、暑さや早い日の出に寝不足気味だった人も、自然に睡眠時間が延びてくる季節ですが、相変わらず寝付きが悪いとか、睡眠が浅くて夜中に何度も目が覚めたり、一度目が覚めるともう眠れないといった不眠症に悩まされる人も多いようです。不眠症状も、体調のバランスの崩れが原因になっていることが多いのです。中医師の張立也氏に、その原因と対策をまとめていただきました。
なぜ、眠れないのでしょうか。
中医学では、脳の働きは「心(しん)」の一部であると考えます。ここでの「心」とは、西洋医学的な脳や心臓の働きのほか、精神の活動や睡眠とも関係する概念です。
例えば、興奮したり心配事があると動悸が激しくなったりします。また激しい運動をして心臓の鼓動が激しいと、とても眠れる状態ではありません。
つまり「心」の働きが乱れたり、働きが悪くなると不眠症状が出るのです。
◆「汗」と不眠の深い関係!?
汗は、不眠とは一見なんの関係もないようですが、実は「心」の働きと深いつながりがあります。
汗を多量にかくと、身体は水分不足になり、「気」も同時に流失するため、元気がなくなります。「心」が必要とする栄養(脳も心臓も大量にエネルギーや酸素を消費する)が十分に補給されず、「心」の働きが低下し、質の良い睡眠が得られません。このタイプは、いわば「元気不足タイプ」です。
一方、夏の間の冷たいものの取り過ぎで消化機能が低下すると、不要な水分が体内に停滞し、これが長引くと熱に変わり、「心」の働きをかく乱させます。いわば「水湿・熱の過剰タイプ」です。
薬物中毒や重度の精神的障害を受けているようなケースを除けば、まだ暑さが残る初秋には、この二タイプの不眠が多くなります。
◆基本となる不眠克服法
酸棗仁湯(さんそうにんとう)は、両方のタイプに用いられる処方です。この主成分はサネブトナツメの種である酸棗仁です。酸棗仁は、性質が穏やかな上に、他の薬の効果を高めるとともに、身体を元気づける作用と精神を落ち着かせる安神〈あんじん〉作用があります。
ハーブでは、環境適応力をつける作用とバイオリズムを正常化する作用があるシベリア人参がおすすめです。
人には本来、周期的に覚醒したり休もうとするバイオリズムがあります。このバイオリズムに合った生活習慣を実行しましょう。また、静かで、適温を保つ睡眠環境も大事です。
激しい運動、精神刺激、コーヒー、お酒など、神経を興奮させるものは就寝前は控えます。
◆「元気不足タイプ」の不眠克服法
このタイプは、「心」の働きが弱いため、睡眠中も目が覚めやすく熟睡できません。昼間も動悸やめまいがしたり、倦怠感があります。適度な運動で血流改善を促し、消化が良く栄養のバランスがとれた食事をとりましょう。
漢方薬は、酸棗仁湯を中心に、貧血気味の方は補血作用のある帰脾錠(きひじょう)などを組み合わせます。汗をたくさんかいて夏バテし元気がない人は、身体に潤いと活力を取り戻す麦味参顆粒(ばくみさんかりゅう)などを加えるとよいでしょう。
◆「水湿・熱の過剰タイプ」の不眠克服法
「心」の働きが混乱しているため、寝付きが悪かったり、一度目覚めると再入眠が困難になるタイプです。消化力を回復し、水分の巡りを良くし、身体の組織を清らかにしましょう。水分が停滞して熱がこもった状態が鎮まれば、神経の高ぶりも治まってきます。
漢方薬は、酸棗仁湯に加えて、清熱化痰(せいねつかたん、熱を鎮めながら不要な水分を排出する)作用がある星火温胆湯(せいかうんたんとう)などを組み合わせます。清熱効果がある瓜類の果物などもおすすめです。
●大量の発汗で身体の潤いと元気を失った時に 麦味参顆粒
汗をかくと、水分とともに元気を生む活力も失われます。朝鮮人参、麦門冬(ばくもんどう)、五味子(ごみし)が配合され、身体に活力と潤いをもたらす処方
●胃腸が虚弱で疲れやすく貧血気味の人の不眠に 帰脾錠
消化吸収を促進して胃腸の働きを高めるグループと、貧血を改善して心の働きを促進する2つのグループの生薬を配合した処方
●心身が疲れ弱って不眠気味の時に 酸棗仁湯錠
軽度の栄養不良状態がベースにある不眠症状に。安神作用のある酸棗仁をはじめとする生薬で自然な睡眠リズムを回復させる
●不要な水分と熱がこもった状態の不眠・神経症に 星火温胆湯
胸やけ、もたれ感、不眠、不安、イライラに。舌が黄色くベタベタしているような時に飲むと苔が薄くなりきれいになる
●ストレスが多い人に シベリア人参
抗ストレス・精神安定・鎮静・安眠・自律神経を調節する作用を持つ。体温調節の働きにも優れており、冷え症にもおすすめ