ヘルシー企業の顔:ヤスダヨーグルト・渡邊榮一代表取締役社長
ここは新潟県北蒲原郡。瓦の名産地で、冬でも雪の少ないこの地方は赤茶色の屋根が目立つ。その安田町で一〇年以上前のこと、牛乳の生産調整が実施され、余った牛乳を捨てることがないようにと、酪農家九人が設立したのが(有)ヤスダヨーグルト。新潟名産「二〇世紀梨」の甘さをヒントに作った『ヤスダヨーグルトドリンク』は、そのおいしさが評判となり地元から徐々に全国へ広がり、小さな会社はヨーグルトとともに成長した。一つの町の酪農家が集まり、牛乳の生産からヨーグルト製造、そして販売まで一貫体制を確立した会社は全国でも珍しい。同社の舵取り役である渡邊榮一社長に、ヤスダヨーグルトの魅力をたっぷり聞いた。
私が酪農組合の役員をやっていた昭和60年代、牛乳の生産調整が行われ、販売できない牛乳が発生しました。酪農家から消費拡大の提案や乳製品を作るなどの議論をして検討したのですが、製造は簡単でも売るのは難しい。組合では断念となりました。けれど、役員として組合からの提案は無視できなかった。提案した酪農家九人で昭和62年に安田牛乳加工処理組合を作った。これがヤスダヨーグルトの前身です。平成元年に有限会社としてスタートしました。
牛乳は身体に良い飲み物で、牛乳の栄養を一〇〇%摂取するためにはヨーグルトに加工するのが一番良いといわれています。どうせ作るなら本物をということで、当時脱脂粉乳仕上げのヨーグルトがほとんどだった時代、香料なし、無添加のドリンクヨーグルトを作りました。ただし甘さは、食べた後の切れ味が良いということで「二〇世紀梨」の糖分に合わせました。生乳八七%、液糖一二%、脱脂粉乳一%(無脂乳固形分を上げるため)の調合割合を開発、それがいまの『ヤスダヨーグルトドリンク』です。パッケージは、デザインを勉強していたうちの娘に任せ、ヨーグルトのイメージに合う濃紺のデザインを採用しました。
ズバリ鮮度でしょう。ヨーグルトは殺菌して、培養熟成して、仕込んでから時間がかかります。そうなると牛乳もより鮮度の良い牛乳を使用しなければおいしくありません。安田町の酪農家たちが絞った生乳が工場に運ばれるまではわずか三〇分ほど。しかも、その日の牛乳はその日に使うのがあくまで基本、これがおいしさの秘密です。そして、温度や発酵法などすべての行程で独自の厳しい基準に照らし合わせながら、丁寧にこだわって作っています。後発のメーカーや組合が県外から訪ねてくると、うちと同じようにやれば、うちと同じヨーグルトができますよと、処理の仕方から調合の割合まですべてお教えしています。本気にやれば同じヨーグルトができるはずです。
この事業を一緒に手掛けた組合の役員が「あじさい牧場」を作ったことがキッカケで、五年前から提携が始まりました。牛乳の約半分はあじさい牧場から来ています。ということは、牛乳の生産・加工・販売の一貫体制を確立したということで、酪農家の出資でそこまでやっている所はあまりないでしょう。私たちは、酪農家の生き残りなんだ、酪農家が生き残るためにやっているんだという意識で仕事をしています。
私は六・三・三制の第一回目の新制中学卒業生です。そのころ戦争が終わり、食べ物からなにからないないづくしの時代でした。農学を学び一五歳で卒業、酪農家として自立したかったのですが、当時牛一頭の価格は非常に高くて、土地とほぼ一緒でした。だから、牛を飼えるようになるまで一〇年くらいかかりました。冬は土建業界、かまぼこ屋などで出稼ぎ、夏はコメ作りの日雇いを繰り返した後、昭和36年頃ようやく牛一頭から酪農家としてスタート、昭和48年頃には多頭数の生産酪農者として組合の役員にもなりました。後に考えると、かまぼこメーカーに勤めた経験があったため、酪農家から食品メーカーを興す抵抗はなかったんです。
新潟県はコメの生産でも有名なので、今度はおコメの消費拡大を考えました。コメの液糖を利用するんです。コメの液糖は酵素分解が必要ですが、実はヨーグルトの製造設備でできます。共通の設備で片一方は分解、片一方では発酵する。これからは分解発酵のおいしさが要求される時代になるのではないかということで、作ったのが『あさごはんヨーグルト』。それなりに話題性もあり、平成9年には優良ふるさと食品中央コンクールで「農林水産省食品流通局長賞」を受賞しました。最近では別の角度でおコメの消費拡大を考えており、脳の働きに関係していると話題のγ‐アミノ洛酸「ギャバ」を発芽玄米よりも遙かに多く抽出する技術を確立しました。これをどのように商品化するかをただいま研究中です。
◆会社概要
平成元年8月、酪農家9人が出資して設立。資本金6500万円、従業員50人。
製造能力はヨーグルトだけで35トン。『ヤスダヨーグルト』ドリンクタイプ、無加糖タイプ、フローズンヨーグルト、コメの液糖を添加した『あさごはんヨーグルト』、ソフトクリームなどを製造。販売エリアは北海道から九州まで全国主要地域。社是は「酪農家とともに有りて、食文化を創造する」。
安心・安全面にもぬかりない。工場内は床から培養施設、充填室まですべてステンレスという徹底ぶり。「私どもは丁寧が基本ですので、見せる生産、見せる加工、見せる販売を徹底させています」と自信たっぷりだ。
◆冬の特別限定ギフト
新潟県は洋梨「ル・レクチエ」の産地でも有名。とろけるような果肉と深みのある味わいが特徴で、生産量も限られているため“貴重な果物”といわれている。
このル・レクチエにヤスダヨーグルトプレーンをたっぷりかけて贅沢なおいしさを味わってもらうべく素敵なギフトを用意している。「こだわり三昧セット(ドリンク2本、プレーン3個、ル・レクチエ3玉)」(写真)4600円、「こだわり贅沢セット(プレーン4個、ル・レクチエ2玉)」3500円。各送料、税込み。
発送期間は11月26日~12月25日限定。
◆プロフィル わたなべ・えいいち
昭和8年2月5日生まれ、新潟県出身。会社勤務や日雇いなどの苦労を重ね、36年念願の牛を一頭購入し酪農家としてスタート。48年組合の委員になり、任期3年を5期務める。60年頃から生産調整の問題が起こり、62年4月酪農家9人で安田牛乳加工処理組合を設立、平成元年8月(有)ヤスダヨーグルトに改組、協同組合的な発想で経営してきたが、平成7年規模拡大とともに社長に就任。
「何十年も酪農家をやっていたので、健康法なんて何もやってねぇです。自然体ですよ」というが、朝晩20分ずつ歩いているという。食べ物も好き嫌いなく、酒もタバコものまない。「ヨーグルトは食べていますよ」と穏和な表情、人情味のあふれる70歳現役の元気社長だ。