ヘルシー企業の顔:カンロ・中原靖生代表取締役社長
ことし創業九〇年を迎えるカンロ(株)。こはく色の飴玉『カンロ飴』は誕生から半世紀、いまも広く愛されているロングセラー商品だ。また、二二年前『のど飴』を初めて世に送り出したのも、飴のひねり包装を初めて機械化したのも同社。「新しいことはカンロ」を合言葉に、消費者ニーズを敏感にとらえ、「お口の童話」として価値ある製品をつくり、一世紀企業へさらなる発展をめざす中原靖生代表取締役社長に聞いた。
◆創業の精神に戻ろう
九〇周年を迎えるいま、改めて創業の精神に戻り、「カンロの使命」について見つめ直しています。
私たちの原点、それは『カンロ飴』です。カンロ飴は、日本の誇る調味料・しょうゆでできています。しょうゆといえばみなさんご承知の通り、火をいれると大変焦げやすいもの。飴というのは一八〇度Cくらいの高熱でつくるものですから、しょうゆの飴づくりはたいへん難しいのです。
カンロ発祥の地は山口県光市、自然豊かな瀬戸内海国立公園近くに、大正元年「宮本製菓」として誕生しました。創業者は、日本人が一番おいしいと感じるしょうゆの塩味・風味(焦げ臭)をもつ飴づくりに強くこだわり、地元のしょうゆメーカーとともに心血を注いで開発を重ね、ついに完成をみたのです。当初は「宮本のショウユ玉」と呼ばれ、のちに「天から降って人を癒したとされる水」という中国の言葉から「甘露(カンロ)」の名がつけられました。昭和35年には、宮本製菓から現在のカンロ(株)に社名変更。カンロ飴は、いまでも他ではできない特殊な専用ラインで生産されています。
◆おいしさ・楽しさ・健康へのこだわり
健康志向のいま、のど飴など機能型製品が幅広い世代に人気です。二二年前、のど飴を日本で初めて発売したのは当社なんです。ただし飴は菓子であって、健康食品ではありませんから、おいしさ・楽しさの要素がやはり大切。「うちは食品メーカーではなく菓子メーカー」であることを常に意識し、おいしさ・楽しさプラス、健康的で安全な新しい菓子の研究開発を行っています。
一つは素材の徹底研究。とくに梅に関してはのど飴に引き続き『梅のど飴』を発売以来、ずっと素材研究を続けてきました。『カリカリ梅』『干し梅』『焼き梅』『海苔と梅のはさみ焼き』など、日本人になじみ深くヘルシーな素材を、個食タイプのオヤツにした新しい菓子も、大変好評をいただいています。例えば、『焼き梅』は大粒の梅干しを三〇〇度Cの強火でこんがり焼いたものです。梅は焼くことで強い酸味がとれ味がまろやかになり、健康効果もより高まるといわれています。
もう一方で、味の研究も進めています。「呈味(ていみ)緩和剤」という、味の調整機能を持つ素材があります。例えば減塩しょうゆにそれを入れると、低塩でも塩味を感じるようになり、よりマイルドなおいしい味になります。これが完成すれば大発明ですよ。今年2月には日本農芸学会で発表しており、今後も大事に研究を続けていきたいテーマです。
日本人は独特のうま味成分を感じる舌を持つといわれますが、日本の飴菓子は他国からも評価が高い。一般に欧米では、甘草など独特の風味をもつ素材を多用したり、香りも甘さも強いものが好まれます。また、いま中国で人気なのはミルクソフトキャンディなどヘビーな味。これは日本が過去に歩んできた道なんです。日本では現在、少し複雑なマイルドさをもつ軽い味が好まれます。以前は「甘さ離れ」といわれ、添加物などを使ってうま味をカバーしたこともありましたが、いままた回帰傾向。やはり甘味はうま味。おいしさの原点は甘さだということが、また見直されています。
◆画期的な新製品『お!もち』11月発売
キャンディの歴史を影で支えているのが、包装技術の発達です。カンロ飴も発売当初は「ハダカ」でしたが、「ひねり包装」となりました。はじめはオブラートとセロハンでくるむ手作業でしたが、それを当社では業界で初めて機械化したのです。これが第一次包装革命。さらに二五年前には「ピロー包装」が出現。これが第二次包装革命です。現在は個包装したものを大袋に詰めた製品や、スティックタイプが主流になっています。
さらに当社では去年の秋から『ノンシュガーのど飴』などのパッケージにジッパーをつけ包装を一新しました。袋商品は一度には食べ切れず、開封後時間が経つと湿気でくっついてしまうことがある。とくにノンシュガー系のものは、吸湿性が非常に高いのです。そこで消費者の利便性を考え、携帯にも品質保持にも理想的なジッパーを導入したのです。
これは実をいえば、大変コスト高なんですよ。一億五〇〇〇万円くらい。企業ですから利益はもちろん大切。しかし利益は、使命を果たすための手段。商品は、われわれの企業活動・経営活動を凝縮した結晶であるべきだと思っています。
「新しいことはカンロ」ということで、次は全く新しい食べ方をする画期的な新製品『お!もち』を11月に発売する予定です。やわらかなおもちやプルプルのゼリーが薄いキャンディ生地の中に入っているという構造で、“飴をなめる”という従来のスタイルとは違い「食感を楽しむキャンディ」です。お楽しみに。
いま日本は不況だとはいえ、まだまだ豊かです。でも心は…。みんな精神的な癒しを求めています。菓子の役割はそこにあると思います。生活を心豊かなものにすることが、菓子の使命。そして「皆さまに夢と健康をお届けする」ことが当社の使命。私どもでは「お口の童話」という言葉をキャッチフレーズにし、人の心に愛を語りかけるような、夢のある製品づくりを常に心掛けています。長年培ってきた菓子づくりの技術に誇りを持って、生活者とともに発展する企業を目指します。
◆プロフィル
なかはら・やすお 昭和15年9月28日生まれ、山口県出身。38年日本大学経済学部卒業、同年4月カンロ(株)入社。営業に配置される。51年大阪支店大阪営業所長、55年福岡支店長、58年研究開発部長代理、63年取締役開発本部副本部長、平成2年常務取締役開発本部長、6年常務取締役生産本部長、9年専務取締役管理本部長、12年3月代表取締役社長として現在に至る。
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身体が欲するときに必要なだけとる、適時適量が健康法。特別な食事制限はせず毎日の晩酌はビール1杯と冷酒1合程度。運動は週末のゴルフと犬の散歩、ときおり水泳も。「30代半ばに急性肝炎を患った時、医者に『疲れたなぁ、と思ったらとにかく寝なさい。起きている時より寝ている時の方が血液の流れは3倍良くなる』といわれ、いまも守っています。人間の身体はうまくできている、それを信じて身体の声を聞く。自然体で生きるのが一番」という。