知りたい食べたい「納豆」のすべて 納豆の歴史

2002.07.10 83号 2面

「かくも優秀な食品は世界のどこにもない。納豆は、まさしく世界のベストワンであり、またオンリーワンである」「『朝は納豆、晩には卵』を実行すれば、『地位向上』『無病息災』『不老長寿』を実現し、『天寿』を全うする」。一九五三年に「蛋白博士・納豆博士」で知られた宇都宮大学農学博士の山崎百治教授は、糸引納豆の栄養研究をまとめた書『日本民族に贈る』で、こう発表した。まだ分析器具などが十分でなかった時代、すでに納豆の酵素や菌食など不思議な栄養効果について詳細かつ的確な考察を下していたのだから驚きだ。

近年、骨粗鬆症予防、血栓溶解作用、さらに最新の研究では抗ピロリ菌作用と納豆パワーは次々に発見・実証されている。納豆が安価で安心なスーパー栄養食品として万人の健康に寄与するようになったのは、製造技術の発展なしには語れない。納豆工業の近代化を支えた納豆製造機メーカー・鈴与工業(株)渡辺杉夫取締役企画室長に話を聞いた。

そもそも“納豆”という食品は、大豆の煮豆表面に枯草菌類のバクテリアが繁殖し発酵したもの。煮た大豆のまわりに納豆菌が繁殖すると、食べやすく消化吸収されやすくなる(消化率は煮豆時の六八%から八五%に上昇)。大豆に含まれる人にとって有害な物質を分解しつつ、人に有益なビタミンや血栓予防物質なども作り出す。

納豆の不思議な菌食効果はいつの時代も愛好され続けてきた。「その発生は弥生時代とも平安時代ともいわれています。しかし明治時代に至るまで納豆づくりは全くの神頼みで、菌の正体も製造原理も分かっていませんでした」(渡辺氏)。

明治二〇年代になると、日本特有の清酒・味噌・醤油などの発酵食品の研究が開始され、納豆の微生物も稲ワラの寄生菌であるバチルス属の細菌と判明。「その後、衛生的・安定的な工業生産ための研究が進められ、大正一〇年代には北海道大学の半澤洵博士により、現行製法の基礎となる純粋培養の納豆菌による製造法が編み出されたのです」(同)。

戦中・戦後の飢餓の時代に栄養を補い、またその抗菌性から伝染病の予防に利用された。大戦後は、経済復興と産業の発展に伴い納豆製造も近代的発酵工業へと変貌、大量生産が可能となった。

一九六二年には“三種の神器”といわれた冷蔵庫の普及率が三〇%に達し、納豆の家庭での保存を可能にした。その後、八〇年後半には健康志向から納豆ブームが起こり、最も効果的なダイエット食品として、また血栓溶解・骨粗鬆症防止効果も注目されるようになった。九四年のコメ不作による消費者のコメ離れ時以外、年々消費量は増大している。

「ご存じの方は案外少ないのですが、納豆は完成品を容器に詰めるのではありません。煮た大豆に納豆菌を接種して容器に詰めたものを、発酵室で納豆に変化させるのです。おいしい納豆づくりは発酵が決め手。現在の発酵室は給温・冷却・加湿・除湿・吸気・排気などの機能を自動制御し、良い発酵が誘導できるようになっています」と鈴与工業(株)の渡辺杉夫氏。より衛生的・安定的・おいしく作るため、納豆製造機器の開発はいまも進められている。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら