三浦敬三という生き方:シーズンにイメージの滑りをするために日常も探求の時間
プロスキーヤー・三浦敬三さんの2001~2002年シーズンは、ざっとこんな滑走及び移動計画となっている。11月25日~12月16日カナダ、12月23日~2月7日北海道・テイネハイランド、2月8~16日岩手県・安比高原、2月17~18日秋田県・田沢湖、3月1~18日ヨーロッパアルプス、3月24日~4月7日北海道・テイネハイランド、4月8~12日北海道・ニセコ、4月13~23日岩手県・安比高原、4月24日~5月6日青森県・八甲田山、5月18~27日富山県・立山。
移動日を含め150日以上、実際の滑走日数は120日に及ぶ。明治37(1904)年2月15日生まれ、この行程中に98歳を迎える三浦さんは、今年も細心の注意を払ったオフの日常を経てシーズンを迎えた。それは一体どのような世界なのかを知るべく、本紙取材班は、長いシーズンへ旅立つ2週間前の11月某日、東京・練馬の自宅を訪ねた。
三浦敬三さんは、故むつ夫人と暮らし、長男・雄一郎さんら四人の子供たちも巣立った一戸建で、現在一人暮らしをしている。ひと夏だけ長男宅で同居をしたことがあったが、身の回りのことを何でもしてもらえる環境に「これでは自分が衰えてしまうのではないか」と危機感を感じ、もう一度独立。食事に始まる家事一切を一人でこなしながら、シーズンにイメージ通りのスキーをするためのトレーニング生活をクリエイトしている。
原則一〇時就寝、五時起床。無理は決してせず、自分で決めた創意工夫あふれる習慣を毎日きちんと守り通す。「百歳元気」をまさに体現している氏に私たちが学ぶべきことはたくさんあるが、今回は特にその中核をなす食事と運動について教えてもらった。
◆食事編
三浦さんが食で強化しようとしているポイントは、まず「骨作り」という。「骨折が何より怖い。この年齢でもし骨折したらもう二度と滑れなくなりますから」。
その強化作戦として、最初に注目したいのが圧力釜を多用したメニューだ。魚のガラもこれで頭から骨まで丸ごと柔らかくして食べる。こうして作れば、歯が弱くても全く問題はなく良質のカルシウムがとれる。主食の玄米も圧力釜で炊けば全量玄米で炊いてもおいしく上がるようになった。玄米食を始めたのは八~九年前からだが、それ以後悩んでいた前立腺肥大が治ってしまったという。一週間ずつ作り置きするという常備菜のキクラゲも、水で戻ししょう油と砂糖を入れ圧力釜で炊く。
味噌汁のだしはカルシウム豊富な煮干しだが、やはりここにも一工夫がある。煮干しをミキサーで粉末にしたものを大さじ一杯使っている。
肉はあまり食べず、魚中心。納豆は毎日。漬け物も自分で漬ける。アスパラ、ブロッコリーなどの野菜もたくさん。果物もとる。
この数年朝夕二回の食事後に飲んでいるという特製ドリンクは、まさに生理活性機能強化の食材満載だ。「ゴマはそのままだと消化しにくいので、摺って粉末にします。その他いいといわれるものを段々増やしていって現在の形になりました。酢卵は生卵を殻ごとビン入れ、上にお酢を入れ数日。卵が柔らかくなった頃から使います。酢卵だけだとちょっと飲みにくいけれど、こうして混ぜれば非常においしくなります。材料すべてを空きビンに入れ食卓に並べておいて、すぐに作れるようにしてあります。最後に冷蔵庫からヨーグルト、牛乳を取り出して入れ、かき混ぜます」。
飲み物は他に、粉茶のドリンクがある。「市販の粉茶を買ってきて、製粉器でさらに細かくし、篩いにかけて本当に細かい粉にする。それを湯で溶き全部飲んでしまいます。こうすれば水に溶けない成分も吸収できるので」。
朝夕はこれら玄米食をベースにした食事をとり、昼はサツマイモを食べる程度で軽く過ごす。
◆運動編
起床後すぐ、まずするのが首の運動、続いて口開け運動。この口開け運動は三浦さんのオリジナルだ。
●口開け運動
口を大きく開けて、舌を前と右、左に計一三〇~一五〇回くらい出す。
「口の周りにできるシワを防ぎたいと考えついたのですが、顔面の筋肉だけでなく耳や頭部、首や肩、胸の筋肉まで刺激することが分かりました」。
●腹式呼吸
次は腹式呼吸。これにも、独自の工夫がある。
ジャスミンやローズなどの香料を鼻のそばで嗅ぎながら大きく息を吸う。そして数秒、鼻をつまんで息を止め、下腹に力を入れては吐き出すのを二五回くらい。香料の効果で、気分がすっきりし、頭の芯まで爽快に。
「九〇歳を過ぎてから聴力が衰えてきたので、それをできるだけ現在の程度で止めたいと思って。鼓膜を内耳から刺激すれば効果的ではないかと考えたのです。実際に数年前よりも聴力検査で減退が見られなくなりました」。
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ここまでは座ったままで、それから立ち上がり上体の運動、チューブを使った屈伸運動、独自のスキー体操に入る。身体が慣れたところで外に出て、速歩とジョギングを混ぜたトレーニングを三〇分程度。新聞を読んだりして三〇分くらい過ごし、朝の食事となる。
●速歩プラスジョギング
斬増法という方法をとっている。最初は五分歩いて五〇歩走る。また五分歩くと回復するので今度は七〇歩走る。というように徐々に走る歩数を増やしていけば、最後は二〇〇歩が最初の五〇歩と同じくらいの感覚で走れる。
「最初に六〇歩走るともうダメで、一日中ぼんやりして疲れてしまうんです。段々上げていくトレーニング法が私には合っています」。
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食事、トレーニング双方の説明とも、「以前はこうしていて、いまはこれを加えた」という解説が多く出てくる。例えば口開け運動ひとつとっても「最初は口を大きく開けるだけだったのが、舌を出す運動もあると知り加えた。さらに雑誌にあったそれを左右に動かすことを加えてみると、確かに左に出すと右脳が働く気がした」など。スキー技術、用具の使いこなし同様、日常も「工夫、探求」が続けられている。
これらの独自法は、これからもますます変化し、パワーアップしていくことだろう。