ようこそ医薬・バイオ室へ:育毛剤開発花盛り、自分に合うものを見つけて
日本初の医薬品としての発毛剤である「リアップ」(大正製薬)が発売されてから約二年。一九九九年の売上額は三〇〇億円だったが、昨年は二割減となった。もともと臨床試験でも有効性が認められたのは七割くらいだったので、予定通りということらしい。
最近もヒノキチオールを配合した「カロヤンアポジカΣ(シグマ)」(第一製薬)がやはり医薬品として発売されたり、日本人に多いM型脱毛(額の両側がせり上がってくるタイプ)に効くという「薬用毛髪力エムパワー」(ライオン)など新商品が次々と投入され、再び活気を帯びている。
そこで、今年(二〇〇一年)の5月に万有製薬が「世界初の飲む発毛剤フィナステリド」の臨床試験の治験者を新聞で公募したところ、五〇〇人の募集に対して二五〇〇人の応募があったという。このフィナステリドは万有製薬の親会社である米メルク社が、もともと前立腺肥大症の治療薬として開発していたが、頭髪が濃くなる副作用があったため、「プロペシア」という名で九八年に発売したものである。現在では世界三八カ国で使用され、日本での臨床試験はこれからだが二〇〇三年の発売予定である。
すでに本稿で紹介したことだが、「リアップ」も米アップジョン社が最初は血圧を下げる飲み薬(血圧降下剤)として開発したもので、その副作用から発毛剤としての適用が検討されたものである。このプロペシアは、男性ホルモンであるジヒドロテストステロンを作る酵素の阻害剤であるため、性欲減退や勃起不全などの副作用がある。またマウスでの実験で胎児への影響の可能性が確認されたため、女性への適用はできないことになっている。
そこで、新たに副作用のない発毛剤として期待されているのが、リンゴ果汁から抽出したポリフェノールの一種である「プロシアニジンB-2(PB2)」である。今年の6月にヒトでの有効性を実証した実験結果を学会発表した。これは、協和発酵工業が十数年前から果物や野菜の抽出物から育毛効果のある成分を探してきた成果で、同社の男性社員二九人に一日二回、薄い部分に塗ってもらい、約半年後には五平方ミリ当たり約七本の毛髪の増量が見られた。また、富山医科薬科大学との共同研究でも、外来患者二一人の男性に一年間使ってもらい、七割の人で毛の本数が増加し、ほとんど毛がない人でも効果があり、硬毛密度も上がったという。
実はこのPB2を配合した商品は、ファンケルと共同で製品化して、すでに九九年から「毛活林」の商品名で販売されている。当初は試験管内の細胞を使った実験で好成績だったために、とりあえず発売したが、今回やっとヒトでその効果の確認が取れたらしい。協和発酵では「自然成分なので副作用がなく女性でも使えるはず」としている。
ところで、先日久しぶりに後輩に会ったのだが、最近苦労が多かったせいか、その労が頭髪に出てしまった感じであった。ところが、妻は素直に、
「アレ、髪型変えたん?」
と言ってしまった。一瞬緊張が走ったが、あまりの屈託のなさに、彼も諦めて、
「いろいろ育毛剤を試してんけどなあ。新製品が出るとすぐ買うてまうわ」
と言っていた。専門家も必ず効くものはないので「いろいろ試して自分に合うものを見つけることが重要」と言っているので、彼の積極性は評価できる。
(新エネルギー産業技術総合開発機構 高橋清)