ヘルシー企業の顔:タニサケ取締役会長・松岡浩氏

2001.04.10 68号 12面

ゴキブリキャップ(通称=ゴキブリだんご)や薬用ブラモンド(育毛剤)など優れた大ヒット商品を、開発・販売している(株)タニサケ。元気企業の力の源は、日本の経済界からも一目置かれる、そのユニークな社風にあるようだ。創業者の一人である松岡浩会長に聞いた。

(『第六回百寿会の集い』講演より)

●とびきり効く“だんご”の作り方、教えます

ゴキブリだんごとの出合いは、以前わたしが食品スーパーを経営していた頃に、同業者が「こういうだんごを作るとゴキブリがいなくなるよ」と教えてくれたことでした。家へ帰って、早速そのだんごを作り、自分の店に配置したところ、一週間で見事にゴキブリがいなくなりました。これはすごいものだと驚き、すぐにこのだんごを発明した谷酒茂雄さんに会いに行きました。それから、昭和60年4月、(株)タニサケ創業へ至ったのです。

ゴキブリだんご・製品名「ゴキブリキャップ」は、おかげさまでいまも創業当時の価格のまま、全国で好調な売り上げをあげています。

当社では、とびっきり効くゴキブリだんごの作り方をみなさんにドンドンお教えしています。作り方を教えてしまっては売れないのでは、と思われますが案外違う。みなさん、家庭でおはぎをお作りになりますか? いまはほとんどの方がスーパーなどでお買いになるのでは? ゴキブリだんごも、目が痛いのと面倒くさいのとで、次からは当社で作ったものを買っていただけるということになっております。自分で作って、その効果を確認したものほど強いのであります。

●日本一の社内報と日本一の知恵工場

当社は社員数わずか四一人でありながら、社内報を毎月二二〇〇部発行しております。「日経新聞より面白い。経営のヒントがたくさんある」と言ってくださる方もいて、有料で分けて欲しいという声も増えています。

朝、新聞を読むと実に暗いニュースばかり。せめて当社の社内報だけは、読んだ後スカッとするような明るく楽しいものを、とプラス言葉を満載して作り続けています。

また会社はこのところ、急に良くなっており、全国から工場見学者も増えています。これは改善提案制度のおかげ。「あの機械をちょっとこうしてほしい」などという提案をくれた社員に三〇〇円差し上げる制度です。一番多い方で毎月三万円の改善提案料を受け取られます。これは永遠の知恵として会社に遺る宝物ですからものすごく安い。改善提案を実行したおかげで、昔は一〇〇人以上いた工場が一五人でもやれるようになりました。ほとんどお金をかけていなくて知恵だけ。人間の知恵はすごいなぁと感じます。改善は一日一ミリ、一〇日で一〇ミリ、三六五日の積み重ねで大きな進歩となる。現場の分からない経営者が提案して入れた機械は使いこなせなくても、社員たちが自ら提案して買ったものなら、少々不都合なものでも使いこなしてしまいます。

社員の知恵が会社に吹き込まれたら、皆が”わたしの会社、タニサケ“という思いを持つ。そんな日本一の知恵工場こそ、われわれがめざす姿なのです。

●生涯の中で大切にしたいのは思いやり

よく”地球に優しく“と言いますが、もっと大切にしないといけないのは、弱い人に対する優しい思いやりだと思います。

七年前、地元の商工会長に頼まれて、知的障害を持ったお子さんの夏休みの実習をお引き受けすることになりました。この子たちは、同級生よりちょっと物覚えが悪いというだけで、三年九組というクラスを作って、一年生から三年生までが一緒になって勉強をしています。作業能率のことを考えると、不安を覚えましたが、いつもお世話になる商工会長のこと、やむを得ず引き受けたんです。

しかし、うちの工場長は大変”徳“のある男で、この子どもたちに「ありがとうございます」「おはようございます」という二つの言葉を教えました。最初は小さな声です。でも次から次へとほめると、だんだん大きな声になって、もう最終日には、素晴らしいあいさつができるようになりました。

私自身、最終日には何か分からない、さわやかな風を身体に感じました。激励会ではあいさつをしようとしたある女生徒が、私の前に来て何も言わず、あふれる涙を流してくれました。

この涙を見た時に私は「あぁこの会社をやってきて、いろいろなことがあったけれど、やってきてよかった…」と思いました。また「これからも!」という勇気のエネルギーをもいただきました。周りの社員もみんな泣いていました。この子たちに、いまある自分たちの幸せを教えられたんです。

知的障害者あるいは身体障害者は、一〇〇人に二人いるといわれております。この人たちが、たまたま、私たちの代わりをやってくれているんですね。この人たちに思いやりをかけないといけないと思うのであります。

実習にはそれ以来、毎年来ていただいております。

●「損の道をゆく」意味を知る

この実習後、先生から嬉しい手紙をいただきました。「実習をした啓介さんは、家庭において”してもらう幸せ“”できる幸せ“ ”やってあげる幸せ“のうち、”やってあげる幸せ“を見事に実践しております。(中略)夏休みの実習は、啓介さん、そして私の心の宝です。ありがとうございました」。

”やってあげる幸せ“ができるようになったということは、この啓介さんが、ご飯を食べた後に流し台へそっと食器が置けるようになった、あるいは、お風呂の水が入れられるようになったということではないでしょうか。

知的障害者の実習をお引き受けしたことで、ダスキンの創業者、鈴木清一さんがおっしゃった「損と得とあらば、われ、損の道をゆく」の言葉の意味が分かるようになった気がします。損の道には大きな広い道があることを教えられました。

●一日一枚ずつ薄紙をプラスする健康法

板橋興宗禅師は「人間は薄紙を一枚ずつはがすように、気力・体力が一日ごとに落ちていくものです。それで私は、一日一枚ずつ薄紙をプラスしようと決心しました。それ以後、夜寝る前にダンベル運動をしたり、屈伸運動などを続けています。駅などでもエスカレーターを使わずに階段を上るなど、積極的に挑戦しています」と言っておられます。私も少しでも近づきたいと思い、五キログラムの鉄アレイを二つ、毎日挙げております。二〇回も挙げますと、腹の落ちた筋肉が回復してきますし、肩こりもなくなります。

朝は6時半に出社して、ゴミ箱を洗ったり、トイレ掃除を続けております。上に立つものの仕事は、一つは、一番汚い仕事をすること。そして一番早く出社すること。そして大きな声で朝一番にあいさつすること。これが自分の健康法であり、会社を良くするコツではないかと思っています。

◇プロフィル

松岡 浩(まつおか・ひろし)

昭和19年、岐阜県生まれ。大垣商高卒。イビデン(株)を経て、スーパーマツオカヤを経営、その後、谷酒茂雄さんと(株)タニサケを設立。平成12年より現職。実体験にもとづいた、分かりやすい言葉で語られる松岡氏の講演は「笑いと涙と感動」の嵐を呼び、日本全国はもとより近隣の国々の経営者から学生までに大好評。講演の様子をまとめた小冊子『全社員が嬉々として出社する人生道場を目差して』(発行=全国おしぼり協同組合連合会)は、社員教育の手引書として活用される例も多い。現在、(株)益田ドライビングスクール(島根県)の取締役相談役兼務。

●(株)タニサケ:岐阜県揖斐郡池田町 0585-45-8555

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