王様ドリアンと女王様マンゴスチンの競演の季節

2000.08.10 59号 2面

熱帯地方の人たちはまた、その現地の果物をよく食べる。これはその猛烈な暑さに対抗し体調を調節・維持するため。「マレーシア人なら子どもの頃から親によく教えられる生活の知恵です」。

マレーシアの人たちがどのフルーツより愛してやまないのが、マレー半島群産ドリオ樹の果実、“果物の王様”ドリアンだ。ラグビーボール大のトゲトゲの姿を見た一七世紀の大航海時代のスペイン人・ポルトガル人は「果物のサタン(魔王)」と驚愕したという。マレーシアでは6~8月、11~2月の年二回、ドリアンの季節ともなると、大通りも路地も例のクセのある匂いが立ちこめる。「森のチーズ」のニックネームを持つドリアンの果肉は栄養満点で、脂質、炭水化物、食物繊維、カリウム、ビタミンが豊富で誘淫剤とか媚薬ともいわれる。梅酒のようにお酒につけて食べる方法や飲酒前後に食べるのは禁物。死を招く恐れのある発酵作用を引き起こすといわれる。さらに、現地ではドリアンを食べた後、硬い外皮の白い薄膜に薄味の塩水を入れて飲む習慣があるが、これも食あたりを防ぐためだ。

せっかくなので、「現地の人でも難しい」という、おいしいドリアンを選ぶコツを陸氏に教えてもらおう。「(1)果実が黄色っぽいもの(2)果実が平均的であることを示す形が整ったもの(3)両手で持ち上げて尾部が濃い香気を出すものは成熟している証拠(4)軽ければ軽いほどいい。種が小さくて果実が多いから、また水分が少ない方がおいしいので。耳の側で軽く揺らしてみて、中の果肉が膜からよく離れてゴロゴロと音がするのは肉質の良い証拠。お試し下さい」。

“果物の王様”に対して“果物の女王”と呼ばれているのが、滑らかで艶がある殻に覆われたマンゴスチン。「果肉にはピンクっぽい種のあるものとないものがありますが、種を噛まずにそのまま果肉と一緒に飲み込むのが上手に食べるコツ。マンゴスチンのシーズンは6~9月でドリアンのシーズンと重なり、この季節はまさに王様と女王様の競演です。中国の陰陽五行で考えると前者は熱性、後者は寒性だからドリアンを食べた後、マンゴスチンを食べればバランスが上手にとれることになります」。

これはちょっと、レシピを教えてもらったところで、簡単にはマネできるものではないが……というものもあるが、元気をもらえるお料理話をいくつか紹介したい。

クアラルンプールから二〇キロ離れた山と密林が多いプージョンという町には、野生鳥獣の肉を材料にする薬膳レストランがある。

熊・山羊・ヤマアラシ・ヒョウ・鹿・ワニ・リス・ウサギ・コウモリ・猿・亀・スッポン・錦蛇・カエル、果ては虎までがメニューにあるという。まさに「飛ぶものなら飛行機以外、四本足のものなら机と椅子以外、二本足で歩くものなら人間以外、何でも食べちゃう!」中華系の世界だ。料理する時、お酒でその野味を消し、やはり漢方の薬剤をうまく配合する。また必ず火を通すのがポイントだ。それぞれ、人間の身体にいい薬効があるという……。

逆に中華系の中にも生臭い肉食を一切口に運ばない、つまり精進料理しか食べない菜食主義者もいる。その際、野菜を鳥・魚・エビまたは肉の姿に化けさせて料理する。手間暇がかかるし、創意工夫も必要なので本物よりおいしい例も多いという。

家にいるだけで一日何回も行水して、汗を流し身体を冷やさないと暑気にあたる恐れのあるこの国でよく飲まれるのが涼茶(リャンチャー)だ。薬材を調合した非常に苦い煎茶なので干しブドウをかじりながら飲む。自分で煎じてもいいし、屋台でも売られている。

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