だから素敵! あの人のヘルシートーク:俳優・辰巳琢郎さん

2000.04.10 55号 4面

かつてはさすらいの「くいしん坊」、この前までは名探偵「浅見光彦」、そして相変わらずのクイズ番組の博学博士ぶり、とたくさんの顔を持つ俳優の辰巳琢郎さん。最近はまた新境地を開拓しつつあるとのこと。先月都内で行われたシンポジウム『乳酸菌で胃を守る』でのパネルディスカッションの後、同シンポジウムへの意見も交じえ「食と健康」のオーソリティーに近況を伺った。

きょうのシンポジウムは医師の先生たちの講義が面白かったです、純粋に。どの先生も人間的に魅力的で。「医は仁術だ」という言葉がありますけれども、これからは医者にしても科学者にしても、知識や技術だけでなく、さらにメンタルな部分、ハートフルな部分が求められてくる、そういう時代になってくると再確認しましたね。

「生体防御科学」という言葉が大変興味深かった。社会の構造が変わって医療が進歩して伝染病がなくなり、人間の寿命が延びた。昔は肺炎ですぐに死んでしまったのがいまは誰でも人生に一度や二度、がんにかかる時代になった。がんや老いや生活習慣病などと頑張って共存して生体防御の力で元気に乗り切って生きていこう、そういうことなんですね。だからこれまでの対処療法ではなく全体的な治療法が問われてくるということだと思います。

「人の命を守るということから出発したけれど、生体防御の学問を追求していくとすべての生命体を守りたい。例えばチョウチョもトンボも生き物であると。さらにいろんな生き物が生きていく環境も命であると考えなくては対応できない。水がきれいでなくてはヤゴが育たずトンボは存在できない。そこまでいくと、物言わぬ石も流れる雲もみな友だちだ」という野本亀久雄先生(九州大学生体防御医学研究所所長)の言葉は感動的でした。

あともうひとつ、「これは」と思ったのは、日本人の寿命のちょうど真ん中が六〇歳だと説明されたこと。「人間の肉体は何歳まで生きるのが可能か」という命題に、「きちんと健康的生活に留意していけば誰でも一二〇歳までは生きられますよ」という答えを出し、それを元にした折り返し地点というわけですね。いわゆる統計的な平均寿命では男性は七七歳ですか、僕はいま四一歳ですから折り返し地点をすでに回ったことを意識していました。ですから、あの設定を示されて「へぇっ」と思いました。勇気づけられるというか。あれは新しい考え方でしょう。

三〇代前半の頃、テレビ番組の『くいしん坊!万才』の八代目リポーターをまる三年務めていたことがありました。確かに日本全国津々浦々の郷土料理を食べ尽くしましたね。これをやっている間はかなりハードなスケジュールでした。一ヵ月分の番組を一週間で収録、ですから大体一日三本分の料理を食べて回ることになります。それをおいしく食べるためにとにかく体調のコントロールには気を使っていました。そんな中で全国で一番、ロケ中に体調が良かった、元気だった場所はどこだと思いますか。これが、長寿地域で知られる沖縄なんですね。

普通に食べる物にみな、医食同源的な思想があるからでしょう。ゴーヤ、カラシナ、ヘチマ、田芋、タピオカ、黄色い人参もありましたね。食に対する考え方が違うというか、豚を食べるにしても顔の皮から指の先までも丸ごと食べてしまう。きょうのシンポジウムの話などに照らし合わせてみれば、確かに生き物を一頭犠牲にしたんだからそれを余すところなくいただくべきです。だから例えばマグロが好きだからトロしか食べないなんて、いけないはずだと。

そう考えると白いパンばかりでなく、全粒粉などを使った黄色いパンにするべきですね。栄養価も高いし。我々はきれいなものに対しての信仰みたいなものが強過ぎるのかもしれない。真っ白なものの方がいいとか。コメにしても生命力の強い地域に黒米とかありますよね。もっと加工度の低い物や、色々な種類の物を食生活に取り入れるというのが大切なのかもしれません。

囲碁が好きで、これも一生つきあいたいもののひとつにしているんですよ。よく言われますが、囲碁は将棋などに比べてどちらかというと右脳的というか、感覚的な部分が強い。道具からしても黒石と白石だけ。将棋はまず王とか金とか、ある程度、字が読めなければならない。動きもみんな違うからややこしい。ところが囲碁は交互に置くだけ。こんなに単純なのに可能性は無限なんです。

この間、八〇歳くらいの方と対戦しましたけれど、いやぁ強かったですね。きょうのシンポジウムでもありましたけれど、ストレス、つまり刺激が人生に全くないとダメだという、これは本当でしょう。自分の身体や脳を適度に刺激してあげるというのが非常に大事なんだと思います。それも生きている人を相手にね。つまりコミュニケーションです。機械相手のゲームでは絶対に狭くなる。人と人がお互いが干渉し合って刺激し合うというのが、意味のあることなんだと思います。

大学時代から劇団で芝居をやって、その路線の延長線上で自分がしたいこと、面白いと思うことをやってきたのが僕の三〇代までです。それはもの創りをする人間にとって非常に大切な感覚でもちろんいまもあるんですが、これからはもう少し目を外に向けてというか、古い言葉で言うと「世のため、人のため」みたいな気持ちも出てきました。そういうふうに自分をシフトしていく必要があるのではないか、自分が皆さんにどんな影響を与えられるか、考えていこうと。これからはもっともっと自分で仕掛けていきたい。

逆に言うと、いままでやってきたのは本当に自分が好きなことをするための下地づくり、舞台づくりだったともいえます。例えば食の分野の仕事でもかつては自分が食べ歩きの主体だったけれど、これからはそれらの経験を生かして何かできないか、とかね。たぶんこれからが人生の本番、と思っています。

◆プロフィル

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学附属天王寺中学・高校を経て京都大学文学部卒。在学中から関西一の人気劇団『そとばこまち』を主宰し、プロデューサー・演出家・役者として活躍。84年卒業と同時にNHKの連続テレビ小説『ロマンス』で全国区デビュー。ドラマ、舞台、映画の他、バラエティーやドキュメンタリーなど幅広く活躍。フジテレビの人気番組『平成教育委員会』では高解答率を上げ偏差値俳優と呼ばれ、NHKBS2のクイズを作る番組『クイズメーカー』でクイズマエストロを務めた。食通、ワイン通としても知られる。

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