ヘルシー企業の顔:富士バイオ・亀井武司社長 「キチン・キトサン」開発物語

1998.10.10 37号 12面

日本人は無類のカニ好き。無口になって身をほじってパクッ。さらにその殻までも愛してやまないという人が増えている。カニの殻から作る健康食品“キチン・キトサン”が、ガン・血圧・糖尿・痛風に効くと大人気になっているのだ。一九八六年、世界で初めてカニ殻健康食品第一号を作った、富士バイオ(株)の亀井武司社長を訪ねた。

新幹線新富士駅前、富士山を望める本社ビルの中はカニ、カニ、カニだらけ。机にも廊下にもカニの絵や置物などが飾られている。

「Tシャツやネクタイもカニ柄(笑)。人にいただいたり自然と集まるんです。『たまには中身も食べさせろ』と息子にはよく言われるんですよ。

私の実家は和歌山県串本の漁師の家でね、幼い頃から海の仕事を手伝っていました。学校を卒業後は、鉄工関係の仕事に就いたんですが、やはり海との縁が深いようで、カニの殻という宝物に出会い、いままた海の仕事をしている訳です」。

「以前は鉄工所を経営していて、産業廃棄物の焼却炉や乾燥炉を作っていました。鳥取県の境港という日本有数の漁港には脱水乾燥粉砕装置を納めていました。当時そこでは、茹でて身をとり加工し終わったベニズワイガニの殻の捨て場に困っていたんです。カニ殻はそのままの状態では水や油には溶けないため加工が難しく、廃物利用にも課題が残っていた。それならカニの粉末を肥料にしてみようと、カニ殻に取り組んだのです」。

昔の人はカニやエビの殻を砕いて焼いて食べていたし、以前から赤ちゃんの粉ミルクや、たばこのフィルターに使われていた。「酒飲みの間では『エビを殻ごと食べれば、二日酔いしない』との言い伝えもあるんです」。健康食品として同社のカニ殻健康食品は口コミだけで売れていった。

その後カニ殻のキチン・キトサンは、農林水産省などのテコ入れで行われた研究から、ガンの抑制・コレステロール低下・高脂血症の改善・血圧安定・血流改善・糖尿病予防・免疫機能の強化効果が報告された。

キチンは、地球が作り出す天然の食物繊維。カニ・エビの殻、キノコの細胞壁、昆虫の表皮などとして、年間約一○○○億トンが生産される。一方、キトサンはキチンを脱アセチル化(濃いアルカリ溶液で熱処理)して得られる物質。現在では加工精製技術も進歩し、応用分野も広がっている。縫合糸・人工皮膚の原料とされ火傷治療のために来日したロシアのコンスタンチン君の手術にも使われた。

農業分野でも有機米の育成を促進する肥料に、水産分野では養殖魚の生存率を高めるエサに、そしてコンタクトレンズや化粧品にも活用されている。

同社はトップメーカーとして「キチン・キトサン協会」を後援し、研究の助成・普及に努めている。「最近は中国からの引き合いも増え、キチン・キトサンの効果が世界で認められるものとなっていることを感じます。今後も広く魅力を伝え、多くの人に活用していただきたいですね」。

◆かめい・たけじ 昭和10年5月30日和歌山県生まれ。昭和34年、愛媛大学工学部鉱産科卒、金生興業(株)入社。千葉工場長などを経て、42年、大同電気産業に転ずる。43年、日本省力機製作所を創業、46年、株式会社化。63年、富士バイオ(株)に社名変更。キチン・キトサン協会を後援。趣味は音楽鑑賞。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら

関連ワード: 農林水産省