ようこそ医薬・バイオ室へ:H2ブロッカーって? 誤用すると大変

1997.11.10 26号 7面

今年の9月からH2ブロッカーなる胃潰瘍の薬が一般の薬局で売られるようになった。医療用から大衆薬へと転用された話題の薬である。

いまのところ、「医師・薬剤師にご相談の上」という注意事項を前面に出したコマーシャルで話題の山之内製薬の「ガスター10」を名指しで買うお客さんが多いらしく、売れ行きも好調という。

ところで、このH2ブロッカーであるが、最近テレビでも取り上げられたり、新聞広告に珍しく作用の仕組みまで説明してあるので、知っている人も多いと思う。が、一応繰り返すと、胃壁は普段は粘膜によって胃液から守られているが、ストレスや何らかの原因によって粘膜がなくなると、自分の胃液で胃壁を溶かしてしまい、消化性の潰瘍になる。そこで胃潰瘍を治すには、まずこの胃液を止めることが先決となる。

この胃液を分泌させる仕組みを鍵と鍵穴に見立てて、ヒスタミンという化学物質が鍵で、この鍵が鍵穴に入って鍵を開けると胃液が出ると考えることにする。ヒスタミンによく似た構造のものを偽鍵として、この偽鍵が鍵穴に入ると、鍵穴はふさがるが鍵は開かない。ここでヒスタミンが来ても鍵穴はふさがっているので、やはり鍵は開かずに胃液は分泌されない。この偽鍵が今回各社が販売を開始したH2ブロッカーで、シメチジンをはじめとするヒスタミンの構造に似た物質が各々入っている。

もともとアレルギー反応の素になるヒスタミンが胃液の分泌を促進することは分かっていた。ヒスタミンは虫に刺された時のかゆみの素や、アレルギーなどの炎症の時に分泌される物質である。ところが、抗ヒスタミン剤を与えてもちっとも胃液の分泌が収まらなかったので、ほとんどの研究者や製薬会社がヒスタミンから手を引いてしまった。

その中で、イギリスのスミスクライン&フレンチの研究所の研究者たちだけは執拗にヒスタミンにこだわって研究を続け、同じヒスタミンでもその受容体によって炎症に関わったり、胃酸を分泌させたりするという仮説を立てた。つまり、ヒスタミンを受け入れる鍵穴が炎症と胃液の分泌とは異なると考えたのである。いまでは特に新しい発想という感じはしないが、当時はかなり進歩的な発想で、学会でもかなり反論が出たらしい。とにかく、炎症の鍵穴に入らず、胃液の分泌の鍵穴には入るが鍵を開けはしないというヒスタミンの偽鍵をいろいろ合成して試して、先のシメチジンなどのH2ブロッカーを開発したのである。

いまこのH2ブロッカーが医療用から大衆薬へ転用された背景には、健康保険組合などの赤字という医療財政のひっ迫が背景にある。大衆薬には保険が効かないから、「軽度の胃潰瘍くらいなら保険で治さずに自費で治してくれ」ということらしい。

ところで、この原稿を読んでいた妻が、

「医師や薬剤師に相談て、なにを相談するん」

と聞いてきた。薬の特徴として、急に服用を止めると胃潰瘍が再発したり、男性ホルモンの分泌も抑えることがあるので、男性の乳房が大きくなったり、インポテンツになったりすることがあるらしい。

「ゲッ、そりゃよう相談せんとアカンわ」

確かに名前で買っては見たが、注意書きを読んで恐ろしくなって飲まない人も結構いるらしい。胃潰瘍にはよく効くので、くれぐれも薬剤師さんによく説明を聞くことをお勧めする。

((株)ジャパンエナジー医薬バイオ研究所 高橋清)

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