フレンチパラドックスのナゾ フランス人が欧州一心筋梗塞が少ないワケ
食の欧米化の危険性が叫ばれて久しい。低カロリー、低脂肪の日本食から高カロリー、高脂肪の欧米食に日常の食生活がシフトしていけば、動脈硬化症、心筋梗塞などの血管の病気、肥満による高血圧など、いわゆる成人病の発生率を高めているという指摘だ。
ところで日本人が言う洋食、欧米食というとそのイメージの原点はどの国にあるだろうか。これにはかなりの確率でグルメの国、フランスと答える人が多いのではないか。
“最もおいしい洋食”“けれども身体にはあまり良くなさそう”“それに値段も高い”。大抵の日本人が持つフレンチに対するイメージだ。しかし実は高級レストランのフランス料理は別として、本当のこの国の家庭食は日本食と同じくらいヘルシー度が高く、なおかつリーズナブルなのだという。はたしてそのからくりはいかに……。
聞き取り調査で判明したのは、実に興味深い事実だった。オルレアンの人たちの主たるタンパク源は魚ではなくやはり動物だったのだが…。「動物の肉を食べる場合、ロースやヒレばかりでなく、肝臓や心臓、腎臓など内臓も全部食べてしまうのです。たとえばスープのダシに使うなどして、家庭で日常的に使いこなしている。こういった内臓にはタウリンが多量に含まれているのです」(家森氏)。
食用にしている動物の種類が多種多様なことも大きな特徴という。「牧畜は羊がメーンですね。若いじぶんの羊を丸ごと一頭食べるという様な方法で料理をコーディネートする。あとは豚、山羊、ウサギ、ダック、もちろん牛も、いろんな素材を最大限に活用する。素晴しいことです」。
フランスが日本に次いで心筋梗塞が少ないのに対しちなみにこの発生率がヨーロッパ中で最も高いのはイギリスだ。「産業革命で早くから豊かになったイギリスでは内臓などは食べずに捨ててしまい、上等なところだけを食べる食習慣がある。おいしいところの肉に塩を効かせてくん製にしたベーコンなどはその代表例。こうしたものを毎日摂っていたら、動脈も硬くなり血栓もできます」
動物の内臓に続く、オルレアンの人たちの次なる成人病対策秘密兵器は、これは想像にかたくない。最近ヘルシーなアルコールとして注目度の高い赤ワインだ。
「赤ワインが身体にいいのは、あの色が示す通り、ぶどうを皮ごと使って良い成分をすべて取り入れているから。フランス人はさらにただの赤ワインでなく、ボルドー産のものを好んで飲む。ボルドー産のものは、赤ワインの中でも最も銅の含有率が高いんです」。
銅そのものが身体にいいわけではない。評価できるのは、銅が身体の中に入る時に作る酵素で、これにコレステレールの酸化を防ぐ働きがあるのだそうだ。つまり、銅を適量摂っていると、心筋梗塞のもととなる動脈硬化になりにくいのだ。
「飲むだけでなく、ポトフなどの煮込み料理にワインを使う。その具材は内臓も丸ごとの肉。実は肝臓などの内臓にはタウリンだけでなく銅がたくさん含まれているのだから、動脈硬化対策ますます倍増というわけです」。
臓物、赤ワインに次ぐ三番めのポイントは、ミネラルウオーター。水道水が飲料に適さないので、フランス人はボトル入りのミネラルウオーターを飲むが、これは山奥からわき出た水。土中のマグネシウム、カルシウムなどのミネラルが溶け込んでいる。
「私たちの研究では、尿中のマグネシウムの量が多いほど、またカルシウムの摂取量が多いほど血圧が低くなることが分かっています。これも心筋梗塞予防にいいですね」。
豊富な種類の動物の臓物、赤ワイン、そしてミネラルウオーター。
それらの相乗効果で、かくしてオルレアンの人々の血管は強く血液はサラサラ流れ、コレステロール値が高めでも動脈硬化が少ないことが分かったのだ。
こんなすばらしいデータを得て、調査隊は街をあとにしたのである。