インバウンド特集:2016年インバウンド本格始動! ぐるなび・杉山尚美氏に聞く

2016.01.04 442号 17面

 ◆外国人客ニーズは食文化体験

 加速するインバウンドの流れは、日ごとに勢いを増している。今まで外国人客と縁のなかった業種や避けていた業種でも、インバウンドを無視することはできなくなりつつある。その中で、一般飲食店がどのような意識を持ち、取り組みを行っているのか、そしてこれからどういったインバウンド対応をするのがベストなのか。ぐるなび海外事業に深く携わり、飲食店の海外発信をサポートしてきた杉山氏に話を聞いた。

 ●Agenda インバウンドの現状 ニーズ感じるも始まりの段階

 –飲食業界におけるインバウンドの現状は?

 2015年は、飲食業界にとってまさに「インバウンド元年」とも呼べる年だったのではないでしょうか。中国人客の爆発的な伸びを筆頭に各国からの訪日客数は全体的に上昇し、メディアでも大きく取り上げられたこともあって飲食店のインバウンド対策がようやく具体化してきたと思います。当社の調査では外国人客を受け入れたいという飲食店の数が86%を越えて、業界全体で意識も高まっていますが、実際にインバウンド対策を行っている店舗数はまだまだ少なく、50%以上の店舗はまだ準備の段階という状況です。とりわけ、居酒屋業態では日本独特の「お通し」文化が外国人客に理解されておらず、そのトラブルを嫌って外国人客を敬遠する居酒屋も多くあるなど、大きなニーズがあることは理解しつつも、まだ始まったばかりだというのが現状です。

 ●Agenda 具体的な対策 発想の転換でシーン創造を

 –インバウンドで成功するには?

 実は、居酒屋が遭遇したような事例がむしろチャンスになり得ます。外国人客が日本食に期待しているのは、味はもちろんのこと、文化体験そのものなのです。お通しを例にすると、「これは日本の旬のものを使った食文化なのだ」ということをうまく伝えられれば、トラブルどころかむしろ喜ばれます。必要なのは、まず受け入れるという前提。そして、「飲食の場は、外国人客にとって全てが新鮮な食文化として映っている」ということを理解するのが何よりも重要です。この視点さえ持てれば、自店の中でどこをアピールしていけばよいか自ずと分かるはずです。

 –具体的なアピール方法は?

 具体的なアピール方法の大前提は、自店の詳細な情報や魅力を多言語で発信していくことです。そうしてまず興味を持ち来店してもらった後に重要なのが、「写真に撮りたくなる」シーンがあるかどうかです。例えば、国によっては生卵を食べる文化がありませんから、すき焼きなどで店員が生卵をといている姿などでも珍しがられます。あとは、着物や作務衣(さむえ)など日本文化を感じさせる制服で接客するなど、店員と一緒に写真を撮ってコミュニケーションできれば、間違いなくSNSにも投稿してくれますし、個人旅行率70%以上の現在、口コミでの宣伝は必ず効果があります。もう一つは、日本の食材への注目度の高さを利用すること。現在、「和牛」や「カニ」が「ぐるなび外国語版」の検索実績で上位不動なことからも、外国人客が業態や料理よりも素材志向になってきていることが読み取れます。

 ●Agenda 浸透の課題 受け入れ態勢整備が鍵

 –インバウンドのこれからの課題は?

 15年1月に「ぐるなび外国語版」をリニューアルしたのですが、その後のアクセス数が前年比で約2倍に増え、海外からのアクセス比率が40%から60%に上がりました。これは、外国人客が訪日前に調べて予約している傾向の顕著な現れです。メニューブックの多言語化やホームページやSNSなどインターネットで情報発信すれば確実に反響が返ってくる土壌が、海外にはすでにできつつあるということです。外国人客にまず興味を持ってもらうという第一ステップは既に一定の成果が上がっていますので、次の段階としては日本の飲食店がより使いやすく、発信しやすくしていけるようなツールを整備することが重要だと考えています。

 当社でも「ぐるなび外国語版」の辞書機能のフォーマットを刷新し、日本語で入力すればカテゴリー別に変換して、手元でリアルタイムにメニュー更新できるようにするなど、インバウンド拡大のためのインフラ整備に努めています。私たちの視点から見ると、飲食店が気軽にインバウンドに踏み出せるようになるツールを提供していくことが、現在の飲食業界の活性化にとって差し迫って重要な課題だと考えています。

 ◆プロフィール

 杉山尚美(すぎやま・なおみ)

 大阪府出身。2000年「ぐるなび」入社後、大阪営業所に配属。その後仙台で新規営業拠点立ち上げに関わるなど、ぐるなびの創業期から新規事業開拓に深く関わる。13年に海外における”日本ファンづくり”を目的とした各国版サイト「Japan Trend Ranking」を開設するなど、日本の食文化を海外に発信する事業も行う。現在は、ぐるなび執行役員に加え、東京、横浜、千葉、仙台の加盟店営業部門ブロック長、海外拠点事業推進室長として、インバウンドや海外企画、運営を統括している。

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