外食の潮流を読む(47)社内接客コンテストで感動した優勝者の洞察力、観察力の高さ
去る2月27日、DDホールディングスの「DDG SERVICE GRAND PRIX 6TH 2019」を取材したのだが、それが実に高度で感動したので、その内容を紹介したい。今大会はエントリー8360人の中を勝ち進んだ9人のサーバーがファイナリストとして登壇した。
審査項目は、ロールプレイング審査(5分30秒)、リコグニション審査(1分)、スピーチ(1分30秒)の三つ。この中のリコグニション審査に衝撃を受けた。これは「顧客認知力審査」のことで、来店したお客さまのことについての質問に口頭で答えるというものだ。
ロールプレイング審査は9人とも共通で、以下がその内容であった。
(1)会計を済ませた「男性1人」がサーバーにあいさつをして店を後にした。
(2)「女性2人組」の1人が席を立ち、店内をきょろきょろし始めた。
(3)「男性1人と女性2人のグループ」の男性が席を立ち、トイレに行くそぶりを見せてサーバーに声を掛けて、女性2人に気づかれないように「先に会計をしてください」とカードを渡し、その後、男性はトイレに向かった。
(4)男性がトイレに行っている間に、同じグループの女性2人がサーバーを呼んで、「ここの会計は私たちが払う」と言ってサーバーにカードを渡した。
(5)最初に店を出た男性が「忘れ物をした」と言って店に戻って来た。
(6)(5)の男性が店を出ると同時に多少雨に濡れた「男女カップル」が入店した。
これら6シーンの中で、それぞれのサーバーはそつのない対応を行った。
そして、リコグニション審査である。この質問はこのような内容であった。
質問(1)最初にお会計された男性のお客さまのお名前は何でしたか? お名前を知り、それを生かして何かできましたか?
質問(2)最後にご来店されたお客さまに関して最も記憶に残っていることは何ですか?
「こんなことを質問されるとは思わなかった」。9人のサーバーはそう感じたはずだ。事実、8番目までのファイナリストはきちんと答えることができなかった。しかしながら9番目、最後の1人は正確に答えた。
その人は「chano-ma代官山」(商業藝術)で店長を務める倉岡春奈氏で、今大会の優勝者となった。倉岡氏の回答は次のとおり。
質問(1)に関しては、倉岡氏は、既に会計を済ませていた男性が、忘れ物をしたということで店にやって来て、忘れ物が見つからなかったときに、「見つかったときにご連絡を差し上げますから、お名前とお電話番号を控えさせてください」と伝えた。男性は「やしま」と答えた。
質問(2)に関しては、カップルの女性の方が赤い「ヘルプマーク」を持ち物に付けているのを見ていて、それを気に留めていた。
つまり、ロールプレイングの各シーンに、サーバーとしての技術力を発揮できる場面が設けられていたわけだ。倉岡氏はそれを的確にこなしていた。「プロ」と呼ばれる技能者は素晴らしい。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。