外食の潮流を読む(50)「馬肉の伝道師」沢井圭造氏に広がる新しいビジネス
●「馬肉の伝道師」沢井圭造氏に次々と広がる新しいビジネスのステージ
(株)馬喰ろうの代表取締役・沢井圭造氏は「馬肉文化の伝道師」を自認している人物だ。1976年5月生まれの43歳、その呼称に恥じない活動家の風貌だ。2007年4月に、馬肉料理専門店の「馬喰ろう」を東京・神田にオープンして飲食店展開に着手。現在は直営7店舗、「馬喰ろうプロモーション」を省略した「BP」という地方で展開する店を14店舗展開している。
BPとはいわゆるFCであるが「現地の経営者に地元密着で営業していただきたい」という思いを込めて、あえてBPという呼称を用いている。こちらのオーナーは同社の企業文化を熟知したサッポロビールの担当者から、同社の企業文化や方向性に合致する企業を紹介されることが多くなっている。現在は金沢、富山、岐阜、三重、名古屋、新潟と広域に及んでいる。
沢井氏によると「馬喰ろう」の地方出店では、地元のお客さまから「待ってました!」という感じの歓迎ぶりだという。加えて、地方は東京と比べて家賃が低く、人材も集まりやすいという環境にあり、経営的に安定していて生産性が高い。
「馬喰ろう」が展開を始めた10年前の当時は、東京圏に馬肉を出す居酒屋は10店足らずで、とても珍しいものであった。今では一都三県に140店ほど存在しているが、うち7~8割の店に同社の母体である馬肉メーカーの(株)NTCデリバが馬肉を供給している。沢井氏は同社の常務取締役も務めている。
「馬肉文化の伝道師」は直営店舗の立地として都心部から東京のベッドタウンに着目し、17年に千葉・船橋に出店。この5月には千葉・柏に出店した。「柏の馬肉屋」は60坪100席の規模で、家賃は80万円、アルバイト募集にも十分な応募があった。地元のお客さまへの認知が速く、平日で1回転、土日祝には2回転近くになっている。
また、新業態開発にも着手し、この3月に馬肉精肉店「HORSE MEAT MARKET BAKUROU」(ホース ミート マーケット バクロウ)を東京・恵比寿に出店。きっかけは、昨今「馬肉を家庭で食べたい」という需要が増えていて、通販が活発になってきていること。その動向に対して、「商品は実際に目で確認して購入したい、このような需要は増えると思った」(沢井氏)からだ。
また、「飲」を外した飲食店の展開も想定している。中華料理、ハンバーガーショップなどが相当する。それは、馬刺しに使用する高い馬肉だけではなく、安い馬肉をきちんと調理加工して提供することで馬肉を消費する機会が増えることにつながるからだ。沢井氏はこう語る。
「馬肉は唯一、生食が認められていて、安全な食肉であり、クセがない。決してジャンクフードにつながるものではない。安全・安心・健康はこれから絶対になくならないし、伸びていくジャンルです」。
このように「馬肉の伝道師」の活動は著しい速さで多岐に及んでいる。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。