総点検–激震下の外食・飲食業 「デニーズ」
あまり、かんばしくない声が内部から聞こえてきた。いわく、「九二年までの膨張期に、高家賃にもかかわらず続々と出店した店舗の相当数が、今後、退店していくだろう」「うまくいっているところと“ボケているところ”の差がくっきりして来た。これをなんとかしないと大変なことになる」。
いずれも、ファミリーレストラン“御三家”のひとつ、「デニーズ」((株)デニーズジャパン/本社=東京・港区)の関係者の弁である。例えば、九四年度内の退店数は九店舗だが、ほとんどは、オーナーが遺産相続のため“物納”するので閉鎖、とか、敷地内に道路が新設されるため、あるいは、ビルを建てかえるにさいし撤退、といった理由なのである。しかしこれが、数年をへずして様変わりする可能性が出ているというのだ。
しかし、流行? の「価格破壊」は行わなかった。これは、すかいらーくが、本体の「すかいらーく」から新業態の「ガスト」を派生させ、徹底したメニューの簡略化と、「コンビニエンス・ストアの弁当の価格帯」で料理を提供しようとする低価格戦略や、逆に、御三家の一角を占めるロイヤルが、看板のステーキ料理の充実をはかり、高付加価値・高品質化による“ディナーレストラン”を目指す高級路線とも違って、「値段」での勝負を避けた形なのである。
もちろん、いわゆる“値頃感”を持たせようと、メニュー単価を平均で六〇円ほど引き下げたりする工夫は行ったが、ハンバーグステーキ三八〇円、日替わりランチ四五〇円のガストに、価格で勝負はとてもできない相談だ。
そこで導入したのが、顧客に徹底的に“擦り寄った”メニューづくりによる集客増大策だった。まずは、時間帯別メニュー。定番の基本メニュー以外に、朝(6時~10時)、昼(10時~15時)、夜(15時~翌朝6時)の時間帯に合わせた料理を提供しようというもの。さらに、四季のメニュー、店舗のある地域に合わせた祭事メニュー、また、店によって味付けを変えたり……など、二、三年前から個別サービスの拡充に取り組んでいるのである。
再び内部の声を借りれば、「あまりに本部の開発に頼り切って、漠然と発注しているだけの店長が増えてきたことへの、ショック療法の意味もある」そうだ。九三年6月に社長就任したさい、小原芳春氏は「二〇周年を機に第二の創業元年を」、というスローガンを掲げた。つまり意識改革の必要性を訴えたといえるが、まだまだトップの掛声は浸透しきっていないようだ。
九二年からガストへのシフトを始めたすかいらーくが、一時期、月間なんと五〇店もの数の出店をやってのけ業界を驚倒させたが、デニーズにも、やがてそんな荒療治が必然になるのかもしれない。
もっとも、デニーズの店舗数は増え続け、売上高も伸び続けている。一見、順風満帆のごときである。
しかし、別の数字は同社の困惑を物語っている。すなわち、経常利益と税引利益、さらに一株当たり利益だ。
九五年2月期の売上高は九五〇億円(見込み)。前年同期は九三〇億円、その前は八五八億円だった。一昨年からの各期ごとの伸び率は九・二、九・八%である。これだけをみると、バブル経済崩壊後も、売上高は、まさに“右肩上がり”状態が続いて来たことが分かるだろう。
一方、問題の三つの数字を、一昨年から今期まで、順番に並べてみよう。六四億五八〇〇万円、五九億八七〇〇万円、五六億円(経常利益)、三三億一九〇〇万円、三〇億一五〇〇万円、三〇億円(税引利益)、一一一円、一〇二円、九〇円(一株当たり利益)。すべて減益なのである。とくに一昨年(九三年2月期)の決算時における減益は上場(八二年11月)いらい初のことで、同社に衝撃が走った。しかし、稼いでも稼いでも、利益は減る一方‐‐それからの二年は同じパターンを繰り返しているのである。
ではこれを改善すべく、いったいどんな“手”を打って来たのか。
出店方法は、徹底したドミナント戦略だ。今年2月末現在の店舗数は四七二だが、東京、千葉、神奈川、埼玉だけで全体の約八割を占めている。業界最大手のすかいらーくはデニーズより三〇〇店ほど多いにもかかわらず、東京二三区内に限っては、デニーズの店舗数を下回っているほどである。この戦略に変更はない。