包装もち特集
◆包装もち特集:通年消費定着へ正念場 新商品・食提案復活で売場活況へ
成熟市場ともいえる包装もち市場だが、昨年度は内食需要の高まりで久々の活況を見せた。本紙推計の20年度(4~3月)では5~6%増の379億円で着地したとみられる。今年は特需の裏年となり、もちの通年消費定着へ正念場となりそうだ。今春3~5月は、前年急増した反動減が見られたものの、6~9月までは比較的堅調な消費を維持。最需要期の12月単月で年間の6~7割を販売する特殊な包装もち市場。例えば夏の1ヵ月分が12月の1日分といわれるほど夏場の分母は小さいが、それでも堅調な消費動向は明るい材料だ。加えて、一昨年と比較しても需要が底上がった。これからの秋需に向けて、メーカーから新商品や食シーンの提案の復活が相次いでおり、消費拡大に向けて売場が活況を呈する。(山本大介)
●20年度生産量、過去30年間で最高
全国餅工業協同組合調べの20年度(20年4月~21年3月)包装もち生産量は、前年比10.9%増の6万7532tとなり、2年連続6万t超え、3年連続で増加した。熊本地震発生による防災意識の高まりで保存食として急増した16年度の6万3000tを大きく上回った。組合員数の増減などで単純に比較はできないが、16年度以前では1990年と91年に6万t超え、それ以降5万t台で推移し、平成から令和にかけての三十余年間では、20年度が最も加工した包装もちが生産され、食べられた年ともいえる。金額ベースでは本紙推計で5~6%増の379億円規模。家計調査の消費推移で見ても3年連続で前年超えとなった。
19年ごろから、冬に偏りがちの需要を通年で喫食させる提案が徐々に浸透。夏場のバーベキューなど、アウトドアでの食シーンが増加。19年10月からの消費増税に伴い、外食から内食回帰で鍋物商材としてのもちの家庭内消費が高まっていた。こうしたベースがありながら、20年に入り新型コロナウイルス感染症拡大で、臨時一斉休校に伴い、2月末から包装もちの発注が急増。学校だけでなく仕事も在宅勤務が増えたことで、仮需が発生。ステイホームの影響は続き、通年でも多くの人の喫食機会を得て、もちの価値が再認識された。メーカーも「十数年に一度の好機」ととらえ、需要拡大に努めている。
通常年明けの1月ごろからは消費が落ち着いてくるが、今年の1~2月は伸長を維持。3月以降は前年の数字が大きく5月まで市場も反動減を見せている。ただ、6~8月は堅調な動きで、生産量も前年を超えて推移。包装もちは保存期間が長いため、需要の先取りや家庭内在庫の有無などで今後の消費動向がつかみにくい面もあるが、メーカーでは消費の定着に手応えを感じている声が大勢だ。
直近10月上旬の関東以西の残暑が、鍋物需要などにどう影響するかは今後注視されるが、「12月の最需要期に30度Cを超えることはないだろう」(メーカー)という声もあって、単月ごとで見るよりもシーズンを通した消費動向を見ていく必要がある。また、今年1~2月が堅調だったため、3月期決算の企業は22年年明けの反動も影響しそうで、楽観視できる状況ではないようだ。
とはいえ、包装もちは歴史ある食文化として、冬の鍋物シーズンや正月には必ず食べられるカテゴリー。増減があっても大きくはぶれない。長い目で見れば安定的・継続的な需要に落ち着く市場だけに、今後も地道な話題作りや売場活性への提案力が求められる。
今秋の新商品は、各社新市場を創出する動きが見られる。トップのサトウ食品は、健康軸の切り口で、熱に強い乳酸菌配合の「切り餅・まる餅」を発売。同じく健康軸では、たいまつ食品が素材の玄米に着目した玄米もち米使用商品を上市した。
これまでしゃぶしゃぶ・鍋用もち、サトウ食品の「いっぽん」や前原製粉の業界最小「プチまるもち」など小型・薄型形態化していた。一方、越後製菓はこの動きに逆行して今秋、昔家庭でついたようなしっかりかみしめて満足感が得られる「厚切り」を発売、市場の活性化を図る。
食シーン提案では、たいまつ食品とアイリスフーズが相次ぎ即食性を訴求した「いなりもち」を上市。また、たいまつ食品は、ギザギザにカットしたもちによる朝食やBBQシーンを提案。マルシン食品は「生かき餅」シリーズで「しそ餅」を追加し、「おやつ餅」を含めた味付けもち強化で独自性を打ち出す。
厳しさが続く外食市場だが、徐々に回復の兆しが見え始め、テークアウト業態に向けたうさぎもちのメニュー提案力や、城北麺工のトッポギの堅調な需要維持など、業務用でのもちの登場シーンにも今後期待できそうだ。