外食の潮流を読む(82)予約が困難な『肉山』が挑む、飲食業の新しい発信と売り方

2022.04.04 518号 11面

 『肉山』と言えば、「予約が困難な」という冠が付く伝説の繁盛店である。2012年11月、東京・吉祥寺にオープンしたこの肉料理コースの専門店は、2階にある1フロア24席が、昼1回、夜2回と1日3回転する店となった。現在は同じビルの1階に居酒屋を営業、さらに3階にプライベート用の個室を構えるようになった。店は吉祥寺にあるといっても、JR吉祥寺駅から徒歩15分以上かかる旧五日市街道近くにある。

 同店では吉祥寺のリアル店舗以外にキッチンカー2台を擁していて、移動販売も行っている。この出店場所はキッチンカー配車サービスのMellowがスケジュールを組み立てていて、都内の決められた場所に出店している。また2台あることから、オフィス街での弁当販売だけではなくイベント会場での出店や実験的な試みを行っている。

 その一つがサッカーFC東京のホームである味の素スタジアムへの出店。現在は予約販売によって1回の営業で350食を販売している。また、ビジネスホテルの敷地内で営業する事例もあり、宿泊客に加えて通りすがりのお客の需要もつかみ取っている。

 『肉山』オーナーの光山英明氏は“夜のキッチンカー屋台村”を営むことを夢に描く。現在、キッチンカーが席を設けて酒類を飲ませることは規制されているが、『肉山』の肉料理と一緒に生ビールを販売するスタイルで行っている。現状、東京・青砥のタワーマンション下で行っていて、これも順次拡大することになりそうだ。

 光山氏はツイッターも発信の手段として力を入れてきた。フォロワー数は現在3万人に及んでいる。これだけ愚直に発信力を磨いてきた飲食店経営者は珍しいのではないか。

 さらに光山氏はこの1月からメディアプラットフォームの『note』で「『肉山』・光山英明の『肉note』」の連載(月3回)を始めた。購読料は月1000円で、これには光山氏が主宰する読者との月1回の交流会「肉ミーティング」へ参加する権利が付与されている。

 連載記事のテーマは「『肉山』・光山英明が考える『繁盛店のつくり方』」となっていて、飲食業経営者にとって興味深い内容になっている。これまでの『肉山』ファンの裾野が広がりそうだ。

 飲食店の新規オープンで「『肉山』・光山英明プロデュース」の案件も増えてきている。この場合、オープンしてから「『肉山』・光山英明プロデュース」をうたっても構わないが、グルメサイトで当初それをうたっても、1ヵ月ほどして外す傾向が多い。それでもコメント欄には「『肉山』・光山英明プロデュース」の文言が時折書き込まれている。

 こうして伝説の繁盛店『肉山』は、キッチンカーによって至るところに出没するようになり、SNSの中で躍動している。『肉山』の魅力が多岐にわたってお客に届くようになっている。『肉山』は情報化社会を巧みにとらえて飲食業の新しい発信の仕方と売上げのつくり方を示し続けている。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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