外食への異業種大手参入は衣食住ボーダーレス化での本業活性策
ここ数年、大手アパレルメーカーがカフェを併設するなど、他業種から外食産業(フードビジネス)に参入している企業が増えている。さまざまなタイプがあるのだが、以前に多くみられた「本業とは別の分野で、新たな柱としてフードビジネスを構える」という形態とは異なるようだ。
ニトリが手掛けるフードビジネス
大手ドラッグストア内で、常温食品や酒類を販売するようになり、さらに現在では生鮮食品も売るようになっている。この数年、その店舗が生活全般をまるごと面倒みるといった「衣食住のボーダーレス品揃え化」が目立っている。
ニトリが手掛ける「ニトリダイニング」は神奈川県と郊外にも積極的に店舗展開をしている。チキンステーキが550円(税込み)と格安価格で展開している「みんなのグリル」は、野菜量を多くし、タンパク質とのバランスのよい料理がコンセプトだ。同じコンセプトのサンドイッチ専門店「HF(ヘルシーファースト)みんなのサンド」を2023年12月にオープンさせて、地元客に好評だ。
隣接している店舗で買い物の前後に利用しやすい。空腹の場合と満腹の場合では消費者の心のリズムや疲労度が変わるので、お腹を満たしたり休息をとったりする場所を置くことで、ニトリでの購入額のアップが見込めるのだろう。さらに、キャンプをイメージさせるメニューなどでニトリのキャンプ用品への誘導や、ダイニング内でコーヒーを飲んでニトリの珈琲メーカーへの購買欲につなげるなど、導線作りが上手である。
また、レストラン内ではニトリで販売している食器やグッズを紹介することもできるため、商品ショールームとしての役割も担う。ニトリが外食産業の売上げをどこまで目標とするかにもよるが、買い物目的以外の客をどう呼び込めるかが今後の鍵ともいえるだろう。
「UNIQLO COFFEE」の空間演出
ユニクロが運営する「UNIQLO COFFEE」は、東京・銀座のユニクロ銀座店の最上階に併設。銀座としては破格なコーヒー200円(税込み)、ゲイシャ種のハンドドリップコーヒーも450円(同)で提供しているほか、洋菓子店「銀座ウエスト」のバタークッキー(2枚で200円〈同〉)など小腹用のスイーツも販売している。店内はギャラリーをイメージさせるゆとりある空間作りを実現。安価であるため、カフェを目当てに来店した客がユニクロの衣類を“ついで買い”するといった“逆ついで買い”も見込めそうだ。
そのほか、カラオケ店「カラオケの鉄人」を事業展開している鉄人化計画がラーメン事業に参入し、創業100年を越えるラーメン店「直久」を2020年に子会社化した。老舗の「直久」の味をカラオケボックス内で味わえるメニューを開発。カラオケボックスで提供されるメニューは全般的にクオリティーが高くなってはいるが、個性が出にくいのが難点。しかし、老舗ラーメンとのコラボ商品によって「カラオケの鉄人」でのメニューはオリジナリティーを出せた。
さらに、神奈川県内外でスーパーマーケットを展開するロピア・ホールディングスのグループ会社eatopiaが焼肉店「ギュウトピア」を展開。近隣のロピア店舗から同じ流通網で食材を安く仕入れるメリットを生かしている。
顧客の共感・共鳴からの信頼獲得
企業が新たなビジネスモデルを構築するにあたり「食」は身近であり、客の反応を得やすい分野だ。体験価値を提供することで本業への需要の拡大が狙えると同時に、新規顧客の誘致につなげられる。また同業他社と差別化を図るばかりでなく、本業の来店につなげる狙いもあるだろう。
体験価値による客の満足度を増やすことで、本業を活性化させ、ブランド強化につなげていることが、昨今の異業種からのフードビジネス参入の特徴の一つだ。「共感」「共鳴」からの信頼獲得が、近年のビジネス成功の鍵だと筆者は思っているが、本業とのギャップからの「感動」「共感」が本業応援につながっているのではないだろうか。(食の総合コンサルタント小倉朋子)