単品おせち市場は拡大も…若者の意識から見える正月の食卓の変化

「作るおせち」から「買うおせち」へ移り、正月おせちの商戦は小売業にとって大きなマーケットチャンスとなっている。さまざまな調査を見ても現状では手作り派より購入派の割合が多く、そして購入おせちに関しても、毎年傾向に変化がある。

日本アクセスはレンジで作れるおせちを提案

若者がおせちを食べない理由は

調査元や方法によって結果にはばらつきがあるのだが、例えばインターネット調査(男女1000人に聞いた2024年おせちに関する調査:ロイヤリティ マーケティング調べ)によると、おせちを食べる予定の割合は44%、食べない30%、わからない26%とのことだ。1人分の予算は5473円で昨年より504円上昇し、購入金額の平均は18946円で、昨年より1119円上回っている。

こうした“オトナ”への意識調査のデータとは別に、若者のおせちへの意識はどうなっているのか。生の声を聞いた。都内と都市郊外に住む20代前半の若者90人に尋ねたところ、A集団では4割がお重のお節を食べ、B集団では2割未満となった。また、お重ではないがおせちの単品を購入(もしくは用意)する割合を含めると、A集団では7割超、B集団では4割未満となった。

AとBは一般的なカテゴリー分類では同じ分類に分けられる集団なのだが、結果にはかなりの違いが見られた。その理由は、環境の違いに起因しているように思える。例えば、B集団の過半数越が年末年始もアルバイトをしていると答えている。また自宅にいるにしても、家族全員が揃わないとか、以前から正月におせちを食べる習慣が無いとの回答が多くあった。各家庭の食卓環境や生活基盤が見え隠れするのがおせちという料理なのだろう。

2021年12月のアンケート結果(全国10代~60代以上の男女2000人にアンケート:テレ東プラスとYahoo!ニュースによる共同調査)においても、おせちを食べない理由はやはり「食べる習慣がないから」が1位で、おせちを食べないと答えた28%のうちの13.9%になっている。

紀文は正月文化の中長期的な啓発活動として、「家族でつくろう!お正月プロジェクト」を発足した

習慣を売上げにつなぐ特異な料理

いっぽう、婦人画報の「おとりよせ顧客」の意識調査(「おせち・年末年始の過ごし方に関する意識調査2024」:ハースト婦人画報社)では、2024年におせちを購入する予定と答えた割合は8割を超えており、買う理由として「自宅では作れないような品目が味わえるから」「年末年始は家事を減らしてゆっくり過ごしたいから」が上位1、2位となっている。

調査相手が家庭を担う立場の人が多いと想定できることから、おせちを単に食べる立場の人なのか、作る立場の人なのかによって、おせちへの感覚は異なることがうかがえる。しかし、おせちというメニューが、「おいしい料理だから食べる」というものではなく、習慣にあるかどうかで選ばれていることは変わりない。

食べる“習慣”を持つ人が、その先に“作るか”“買うか”の選択をし、買う選択の先に、「ブランドで選ぶ」「価格」「和食か洋食などの種類で選ぶ」など選択基準が出てくるのだ。それゆえに、おせちはおいしいだけではなく、習慣化されていることが最も売上げを左右する要素なのだ。

おせちも単品購入の時代か

近年の傾向として、単品を買う割合も増加している。「買う・作る」両方を組み合わせる「ハイブリッド調達型」が主流である中で、購入場所については「スーパーマーケット」が約8割(「おせち料理」に関する調査:ロコガイド)で、1位となっており、単品をリーズナブルな価格で合理的に買う傾向が強くなっている現れだろう。

以前は「食べきれなかったおせちの活用術」といった特集が正月明けに定番となっていたが、コロナ禍あたりからめっきり減ったと思われる。これも物価高騰とあいまって、単品購入の割合が増えたためと想像できる。

150円の価格帯も追加されたローソンストア100の「100円おせち」

そのような中、ローソンストア100では、2024年向け100円均一の単品おせちの価格改定を行い、「北海道産帆立貝」などの一部を150円に値上げした。しかし、イオンの単品おせちや、かねてから正月商材を多く発売する紀文の単品おせちなど商材はますます豊富になり、全体的に単品おせちの市場は今後も広がる可能性があるだろう。

多様なニーズに応える「日常食にもなりえる」おせち

さらに百貨店では、老舗の店によるおせちに加え、多様なニーズに応えるおせちのバリエーションを増やしている。東急百貨店では、食物アレルギー対応おせちや食塩不使用おせちなどがあり、食塩不使用に関しては出汁の使い方で味が損なわれないように工夫をしている。そのほか、国産素材のおせちやオードブルおせちなどさまざまな対応をしている。

高島屋では数人のパティシエの味を楽しめるスイーツおせちがある。好みではない食べ物は食べずに、食べたいものを必要な量だけ選んで食べるという日常の“習慣”が、正月料理のおせちにも求められているといえるだろう。

大丸・松坂屋は冷凍おせちを戦略的に育成していく

全体の傾向として、この10年間では和食の伝統的なおせちに代わり、和洋折衷おせちの売上げが人気で、さらに今年はおかずやつまみとしての役割のおせちが広がりを見せているようだ。より気軽に手に取りやすいおせちや、余っても困らない量、毎日食べても飽きない味付けのおせちを求める傾向が見られる。おせちは非日常の代名詞のような料理であるのだが、近年では、日常の食事のおかずやつまみとしても利用可能であることが、合理性のあるおせちとして求められているのだろう。(食の総合コンサルタント小倉朋子)

書籍紹介