山もいろいろ:歩く速度は1/2

2003.11.10 100号 9面

高い山を美しく染めてきた紅葉がだんだん身近に降りてきて、秋の青空と錦秋の紅葉を楽しむハイキングに絶好の季節になった。

天候も安定し始めるから、JRや私鉄各社の企画するハイキングイベントなどに参加する人も多いようだ。たまたまそのようなイベントの日に当たってしまうと、山道いっぱいに人の行列が繋がり、とてものんびりなどはしてはいられない。しかしそれだけ、健康に関心のある人が多く、これをきっかけに山好きが増えてくれるかもしれないのだから、それはそれで良いことかもしれない。

でもちょっと気になるのは、途中で足がつったり、気分が悪くなったりして、道ばたに倒れ込んでしまう人が少なくないことだ。これでは身体に良いとか、山好きになるどころか、辛いからもう二度と山はいやだとなり、やぶ蛇だ。

人が大勢いると、周りの速度につられたり、思わず競う気持ちが湧いてきて、普段運動などしていない人でも、つい早足になってしまうのが原因のようだ。実際、町中で歩くスピードよりずっと早く歩いている人をよく見かける。

山歩きの速度は本当にゆっくりだ。家族向きの短いコースでも三~四時間は歩くから、それを見越してゆっくり歩く。歩きやすい山道でも一時間で二キロ、歩きにくい道や少し傾斜が急になれば一キロくらい進むのが普通の速度。高低差でいえば、遅い人は一時間で二〇〇メートル。三〇〇メートルも登れるのは相当強い人だ。

一方町中では、不動産業者の「駅から何分」というのは、一分で八〇メートルが基準だそうで、一般には一時間で四キロというのが普通の速度とされている。また、駅の階段を普通に上る速度で一時間登ると、なんと八〇〇メートルも上ってしまう。駅の階段はせいぜい三〇段くらいだから可能な速度だ。

山歩きと比べ、日常の速度はこんなに早い。なのにさらに早く歩くのだから具合が悪くなるのも仕方がないといえよう。

山に入ったらゆっくり歩こう。普段の半分以下で良い。きれいな景色に感動し、新鮮な空気もたっぷり吸おう。そうすれば、心地よい疲れと開放感が、あなたの心と身体をリフレッシュしてくれるに違いない。

((社)日本山岳ガイド協会公認ガイド 石井明彦)

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