検証と対策 現世マグロ事情 いまや絶滅の危機?
おにぎりの具としてすっかり定番化したツナ缶。携帯に備蓄食にとドンドン需要を伸ばしている。ところがキハダマグロなど原料魚の不漁により、先月末、卸値の引き上げが決まった。また、トロなど高級食材になるクロマグロなども数を減らしており、「絶滅の危機」として、日本人の乱獲に世界は渋い顔。日本人が愛してやまぬマグロの話題を追った。
◆ツナ缶値上げ
ツナ缶詰の卸売り価格が先月末、約八%程度引き上げられた。影響で私たち消費者の手にわたる小売段階では、三〇〇円前後だった一六五gの標準的な缶詰で、一缶あたり一〇円~一五円の値上げになるという。
値上げの原因は、ツナ缶の原料となるキハダマグロとカツオが、不漁により価格が高騰したこと。缶詰業界最大手のはごろもフーズ(静岡県清水市)と業界二位のいなば食品(静岡県由比町)が先月末から、今後他の缶詰メーカーも値上げを行う見込みだ。
◆目立つ不漁、出荷2割減に
また、メーカー各社とも原料の手持ち在庫は半月分程度に落ち込んでいる。このため、今後は出荷量を昨年同時期に比べ二割程度減らす計画だ。
関係者によると、キハダマグロとカツオの不漁は6月ごろから目立ち始めた。東太平洋・インド洋・大西洋など、世界の主要漁場が軒並み深刻な不況に陥っているという。
原料となるキハダマグロの価格の急騰は、ツナ缶にとって影響は深刻。缶詰加工をする際の採算ラインは一六〇~一七〇円ともいわれている。ところが、先月末のキハダマグロの値段は標準サイズもの(一〇キログラム以上)の国内着価格は一キログラム二七五円、今年初めに比べて倍近い値段となっており、影響は深刻だ。
◆高まる「保護」の声
一方、高価なトロのとれるマグロ類についても保護を求める声が高まっており、国際自然保護連合(IUCN)では「絶滅の恐れがある生物種リスト」への掲載を検討していた。
先月初め、国際自然保護連合は『絶滅の恐れのある生物種リスト・レッドデータブック』最新版をまとめ、世界のほ乳動物の四分の一が絶滅の危機にある、などの発表をした。
六年前と比べリストに載ったほ乳類の数は二倍近くにのぼり、「世界的な保護の取り組みが必要」と警告している。今回のリストでは日本を生息地とする動物では、アマミノクロウサギなどほ乳類二九種、鳥類三三種、魚類七種など計一三二種がリストに掲載されている。海洋生物でもサメ、珊瑚礁に生息する魚類など、一〇〇種以上が追加された。
日本に影響が大きいマグロ類は西大西洋で捕れる黒マグロ、全域の南マグロ、南大西洋のビンナガマグロなどが三段階評価で最も絶滅の可能性が高い「絶滅寸前」と判定され、太平洋のメバチマグロは二番目の「絶滅危機種」とされた。
こうした判定は「IUCN自身の基準からも矛盾がある」と日本の研究者から異議も出された。
結果、今回は予定のうち四種の魚はリストへの掲載を免れることに。水産庁は24日、カナダのモントリオールで行われた第一回国際自然保護会議で、黒マグロ、フカなどの追加掲載は先送りされたと発表した。
◆世界の目も厳しく
しかし今後も自然保護の立場から日本に対する世界の目は一段と厳しくなりそう。
漁業関係者は「リストに掲載されたとしても、漁獲への拘束力はない。消費者への影響も大きいものではない」という。が、このまま捕るにまかせていれば、近い将来一番困るのは日本人なのだ、という海洋研究者の声もある。