野菜は台所の常備薬 農学博士・赤堀栄養専門学校 斎藤進理事に聞く
「成人病で亡くなる人は毎年約五〇万人、なかでも食事の乱れが病気の明らかな原因と考えられる人が約一五万人もいるという。交通事故で死亡する人が毎年約一万人。こう考えると危険な運転の心配以上に“危険な食事”をしていないか考えるべきだ」と聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院・中村丁次栄養部長は言う。毎日の食事で気を付けるべきことは減塩、減脂肪分など多くあるが、最も身近な食材「野菜」は健康生活に欠かせない。「野菜は台所の常備薬」の意識を高め、一日三〇〇g食べることを実現したいもの。でもやみくもに量だけ食べれば安心とはいかないのだ。近年流行の「有機農法野菜」も含めて、現代の健康食卓術のために必要な野菜の基礎知識を、それぞれ専門家にうかがった。さて、まずは野菜の味、栄養面についての疑問には農学博士・赤堀栄養専門学校斎藤進理事が答えてくれた。
‐‐栄養成分表から割り出すと、一日三〇〇gの野菜を食べるのが理想だという。でも何をどう食べればいいのか。
斎藤進氏 淡色野菜を二〇〇g、緑黄色野菜を一〇〇gと、さらにいも類も一〇〇gの割合で食べるのが理想です。三〇〇gの野菜は多く聞こえるようですが、煮たり三食に分けて食べれば大した量ではないですよ。
バランスを重視する今日の食事では、野菜不足だなと思うと翌日にその分を多く食べる人がいます。でもその効果はかならずしも期待できるものではありません。
不足してると思ったらサプリメント(栄養剤)や天然の野菜ジュースなどで、その日のうちに補うほうがいいでしょう。野菜のビタミンは水溶性ものが多いので、身体の中で長時間蓄積できず、余分な物は排泄してしまうんです。
‐‐緑黄色野菜に多く含まれるβ‐カロチンは、ガン予防作用があるなどで話題になっている。しかし半面、米国ではその効果は期待できないどころか、害になるという報告があるとも聞きますが、真相は?
斎藤 β‐カロチンは質問の通りガン予防などの働きもあり、ぜひとも食べることをお勧めします。しかしβ‐カロチンには、天然のものと化学合成したものがあり、この米国の報告は化学合成のもの。この化学合成したものに発ガン物質が認められたんです。「β‐カロチンはたくさん取るべきだ」ということだけでβ‐カロチンのサプリメントをたくさん飲む。
そうすると野菜そのものでは相当な量を食べないと摂取できない量のβ‐カロチンがサプリメントだと簡単にとれてしまいます。ましてや天然ではない化学合成したものが。その日の野菜不足を補うためにサプリメントの利用も効果的だという一面、補助的なものという意識も必要です。
‐‐健康を損なう悪者として最近浮上してきたのが活性酸素。この作用を抑える野菜は?
斎藤 抗酸化力のある栄養素の主役はβ‐カロチン。それにビタミンCをはじめB、E。具体的にはニンジンのオレンジ色に含まれるカロチノイドやパパイヤ、ミカンの黄色に含まれるフラボノイド。赤色のイチゴに含まれるアスコロビン酸も抗酸化力があります。色の濃い野菜を食べろと言われるのはこの理由もあります。
‐‐野菜の栄養素を壊さない調理のポイントは?
斎藤 オーバークッキングしないことです。つまり、水に浸けすぎない、空気に触れすぎない、ゆで過ぎない、炒めすぎないということ。
加熱で栄養素が壊れることは知られていますが、水でも栄養素は流出します。栄養素が壊れにくい調理方法はサッと洗って、サッとゆでる、これですね。
ただし、β‐カロチンのように油と同時に食ベた方が吸収がいい栄素素もあります。ゆでてマヨネーズなど油分が入ったものと一緒に食べるといいでしょう。
‐‐店頭に並ぶ野菜群の中から栄養価の高いもの、いいものを選ぶにはどのような目を持てばいいのでしょうか。
斎藤 色、ツヤなど一般的なことはもちろんですが、昨今注目されている有機農産物もお勧めしたいです。
おいしさを構成している味や香りについて、有機野菜と従来の栽培法による野菜を比較したパセリの実験結果によると、有機質で栽培されたものの方が色が濃く香りも高いことが成分の測定で実証されています。またジャガイモでは有機栽培のものの方が煮崩れしないという結果もあります。
確かに価格は少し高目ですが、一〇〇円で購入した従来の栽培法の野菜と一五〇円で購入した有機栽培のものとでは、栄養として得られる値にはかなりの差があるのも事実です。
また有機栽培は自然の成長速度で育つのでその細胞構成も密で、収穫してからも日持ちします。反して化学肥料で育った野菜は成長速度が化学的に促進され、細胞は粗に構成されたまま成長します。
これらの事実を踏まえて考えると、多少の高価格は高い買い物ではないかもしれないですよ。