百歳への招待「長寿の源」食材を追う:「サツマ芋」
サツマ芋と酢‐‐ともに最も庶民性に富む食材であるゆえ、長寿食品としてはいつもはあまり注目されないが、じつはなかなかの効能がある。ぜひ見直していただきたい食べ物だ。
(食品評論家・太木光一)
サツマ芋の原産地は北アメリカで、コロンブスによってヨーロッパに伝えられた。日本にはルソン・中国・沖縄を経て鹿児島にと伝来。九州に行くと琉球いも、琉球に行くとからいもと呼ばれ、その経路を示している。一八世紀に将軍吉宗の命で、蘭学者青木昆陽が薩摩の国から千葉県に移植し、「さつまいも」と名付けられた。栽培が容易で、コメと違って大量の水を必要とせず、適地として普及した。とくに天災や飢きんのときには主食として重宝され、多くの人命を救い、救荒食物とされた。
昭和中期までは、多収性に重点が置かれたが、最近では食味のよいものに品種は大転換をみせ、高系一四号・紅赤・クリマサリ・ベニコマチ・フサベニなどが人気品種に。ベータカロチンの多い、ベニハヤトも注目されている。
食用のサツマ芋は、主として副食や間食用として煮物・てんぷら、ふかし芋・焼き芋・大学芋・きんとん・いもせんべいなどに利用され、ほとんど主食にはされていない。
サツマ芋のでんぷんには、比較的消化されやすいαグルコンド結晶のαでんぷんのほか、人間の消化酵素では分解できないβグルコンド結晶のβでんぷんを含んでいる。これが体内で消化できず、食物繊維的な効果を持つ。
さらにサツマ芋には一〇〇g中二・三gの食物維繊がみられる。これが大腸や小腸のぜん動を助け、便秘防止の妙薬とされている。便秘に悩むお年寄りには、まさに美容食品・保健食品ともいえよう。へたな薬をのむよりはるかに効果的である。大腸ガン防止やコレステロールの低下作用からも注目されている。
またビタミンCにも恵まれ、一〇〇g中三〇ミリグラムも含まれている。中くらいのもの一個食べれば、十分な量で、加熱調理しても六割は壊れずに残る。他の野菜とくらべると、トマト・ゆり根・かぶ・かぼちゃ・さやいんげん・ホワイトアスパラなどは二〇ミリグラム、じゃがいも・グリンピース・キュウリ・二十日大根・マスクメロンは一五ミリグラムとなる。トマトなどよりもビタミンCは多いのである。
また特性として体内の塩分を消耗させるカリウムを一〇〇g中四六〇ミリグラムと非常に多く含んでいる。最近の食生活は塩分過剰摂取による高血圧の増加、肉食増加による身体の酸性化が問題とされてきた。アルカリ食品のためこの面での活躍も期待されよう。
サツマ芋は工業用原料としてアルコール・紡績用ほかに利用されていたが、生産量が激減し次第にコーンスターチなどに置き替えられた。食品用も減産が続き、価格も急騰、高級野菜と変わってきた。焼き芋なども、一本数百円、ケーキより高くなった。それでも自然食品・健康食品として見直され、人気がわいている。とくにスイートポテトは若い女性の好物である。日本での生産量は激減が続いているが、世界での作付面積は年率で五~六%ずつ増産が続き、アジアとアフリカが主産地となっている。