だから素敵! あの人のヘルシートーク:女優・清川虹子さん

1997.07.10 22号 4面

「太平洋戦争はもちろん関東大震災も知っています。よく覚えていますよ」という現役女優は、いまやこの方の他にそうたくさんはいないだろう。芸能記者たちからも「芸能界の黎明期のことが聞ける貴重な存在」と敬意を表される。生死の境をさまよった体験を乗り越え、この秋はNHKのドラマ出演や舞台に映画と仕事が目白押し。いまその撮影・稽古に明けくれる毎日という清川虹子さんに元気の秘訣を伺った。

秋のNHKの土曜ドラマ「女たちの帝国」を撮影中です。化粧品会社を経営する一族の骨肉の争いを描いたお話でね、私はその家の女ボスの役なの。親父と二人で車で行商して財を成し遂げたすごい大金持ちなんだけれど、昔からの質素な格好で通していて、前掛け締めて歩いている得体のしれない女なんです。フフ、面白いでしょ。

舞台は東京・銀座ガスホールで9月後半に五日間問。同じ時期に東映の映画の封切りもあります。

そんなだからここのところは毎日忙しくって。でも私一度はもうだメかと世間で言われたんですよ。だって電車の週刊誌の中吊り広告に「ああ、清川虹子!」って書かれたんだから。「ああ」よ、何たって。ヒドイでしょ(笑)。

でも、一二日間の意識不明だから当たり前かもしれません。

長男が亡くなってショックで倒れちゃったんです。吐血と下血が一二日間。でもその間、ものすごく面白いことが起こったんです。亡くなった友人たちがみんな私の周りに来たの。

いえ、私は何も覚えていないんですよ。後で聞いた話です。とにかく死んだ人ばかりの名前を言って、楽しくおしゃべりしてるんですって。「あなたもっと遊んでらっしゃいよ」とか言って。

太地喜和子さんでしょ、若山富三郎さんとか、とにかく死んだ人ばかり。後でお友だちに「あなた私の名前を一度も呼ばなかったそうね」って怒られちゃった。「だってあなた死んでないじゃない」って切り返したけれど(笑)。

それから「化粧道具持ってきて」って毎日付き人にメーキャップさせていたらしいんです。「ぐずぐずしてちゃタメ、車待たせちゃ悪いじゃない」とか言って。

もうひとつ。回診で七~八人の先生が見えるんだけど、その中の一人にとってもいい男がいたんですって。で、その先生が来るとす-つとしななんか作るんだって、私。うちのお手伝いさんに大笑いされちゃった。私はまるっきり覚えてないの。おかしいわね、やっぱり。

私も気が強いようでいて弱いと思います。息子が一人死んだくらいで倒れるなんて。でも私、子供とは清川虹子を忘れて運動会行って一緒に競争してボールペンひとつ貰うために必死になったりして。そんなこともしたんですよ。その子は戦争で片手とられてることもあって、だから苦労して苦労して育てた子なんです。それが先に死んだでしょ。ショックだった、やはり。

まあそんな死線ぎりぎりのところからどうやってこんなに元気を取り戻せたかというと、経緯があるんです。意識は回復してもまだ入院していて車椅子に乗ってリハビリしていた頃、お仕事の話が来たんです。アニメ映画「平成狸合戦ぽんぽこ」の声優です。「とてもとても。一二日間意識不明の大病でいまも車椅子に乗っているくらいでダメ」って言ったのに、先方が「車椅子でもいいから来て下さい」と。

それ聞いて、こんな私でもまだそんなに欲しがってくれる監督がいたのかって。「私きょうから車椅子はずす」って決心しました。一週間リハビリして仕事現場には何でもない顔して歩いて行きました。

映画ができて、試写を見た土井たか子さんが「清川さんが出てくると私ホッとしたわ」なんて言ってくれました。私が出ているんじゃない、出ているのは狸ですよ(笑)。でも私に見えるんだって。この作品で私演技賞もらっちゃって。演技したのも狸なんですけれどね(笑)。

この体験から私すごく分かったことがあります。人間が元気でいられる一番の源は、自分がまだこの世の中に必要とされているんだという意識なんですね。それからやはり日頃の養生と食品。なにかこれが私の元気の源と思える食習慣を持つのも頼りになります。私が続けているのは大豆レシチン。これはもう一五年くらいになります。毎朝習慣として歯を磨いたら大サジ一杯山盛を牛乳と一緒に飲みます。レシチンは、人間の身体の中にある必要な成分だと聞きました。体内の余分な悪いコレステロールや中性脂肪を、洗剤のように洗い流してくれるらしいです。また特に脳にレシチンが不足するといわゆるボケという現象が現れると聞いています。「清川さん、よくセリフどんどん覚えられますね」なんてよくいわれますけれど、レシチンとか食に気をつけているせいかもしれませんね。

仕事もいいペースでのってきたので、いまもうひとつ目標があるんです。ひとつ、恋をしようと。やはり女優は恋をしなくちゃ。私は自分の持っていないものを持っている人が好きなんです。絵描きでも音楽家でもね、私は役者しかできないから。それから一番の問題は私が惚れるんじゃなくて向こうから私にうんと惚れてくれる人。難しいんですよ、だからね(笑)

●清川虹子さんのプロフィル

1912年東京生まれ。5歳で清元を習い始め、16歳で川上貞奴の川上児童劇団に入る。35年、PCLと契約を結び喜劇映画に出演。エンタツ、アチャコ、古川緑波らと共演。その後、黒澤明、吉田喜重、今村昌平などの監督作品でも活躍する。

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