山の食事12カ月:雪解け水は身体にいいかな?

1997.07.10 22号 16面

“梅雨明け一〇日”、天候が安定し、夏山歩きに絶好のシーズンがやってくる。三〇〇〇mクラスの高山や東北、北海道の山々には這え松の緑や真っ青な空と、鮮やかなコントラストを見せてくれる雪渓がまだたくさん残り、その下からは、大きな川へとつながる水の一滴が解け始める。

生まれたばかりの小さな流れをカップですくって飲む味は何とも言えずおいしい。

キヌガサソウ、ミヤマキンボウゲ、クロユリなと少し湿気を好む高山植物が百花繚乱咲き誇るのもこのころだ。

雪渓の回りには花だけではなく、昆虫や蝶、動物など生に溢れている。その秘密は、どうも雪解けの水にあるらしい。

事実、この水を鳥や動物の子供に飲ませると、成長が早くなり、病気にも強くなるのだそうだ。

氷や雪というのは、酸素一個、水素一個の水の分子が冷やされて結合し固体化したものであるが、再び解けて水に戻るときには、元のようにすベての結合がバラバラにはならず、一部は氷の結晶格子のまま残り、低温のままではその状態がずっと続いて、四〇度まで温めないとバラバラにはならないという。だから、冷たい雪解け水には、まだ氷がたくさん残っていることになる。

この残された氷の結晶格子が生き物の健康に大きな影響を与えるのだ。

動物植物を問わず、生き物の最小単位である細胞膜は、水の分子を強烈に引き付け、なんとこの氷の結晶格子にそっくりな形に並べて外郭を作っているそうだ。

細胞が壊れるということはこの格子が壊れることで、その崩壊を氷の結晶を含んだ水の補給で立て直せるということにもなる。

こんなことを考えていると、おいしい雪渓の水がますます神々しくなってきた。そういえば、名水と言われ、身体に良いと言われる湧水は、雪の多い地方に多くあるのもうなずけることではある。

(日本山岳ガイド連盟公認ガイド 石井明彦)

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