滋味真求:200年の伝統の味「岡村屋」 北関東のうまいうどん屋

1997.09.10 24号 18面

うどんが旨い! などというと、「稲庭かい?」「讃岐かい?」などと声がかかり、どうも関東地区の地名が上がらない。「鮨、天ぷら、蕎麦、うなぎ」が江戸の四大食い物として蕎麦が大いに喧伝されたため、関東ではうどんは田舎の食い物?となってしまったらしい。

最近では自然食品としての「うどん」が再認識されている。稲庭、讃岐といったところで、現地で食べるのは手打ちの生うどんだろうが、他の地域で手に入るのはもっぱら乾めんか半生うどんといったところ。旨いうどんを食べるのならやはり生の手打ちうどんに限る。

もちろん関東にだって手打ちうどんの旨い処は存在する。埼玉県北東部に位置する加須市は、関東三大不動の一つである不動岡不動尊や青縞木綿織物の集荷地として古来から栄えた。その不動岡不動尊のご門前にある、岡村屋という創業二○○年という老舗のうどん屋を訪ねてみた。

九代目当主である岡政敏さんは作務衣を着た様子からは、うどん屋の店主というよりは郷土史研究家のような風格の御仁である。当主の話によると、当家は一七○○年代からこの地に住みつき、お不動さまのご門前でうどん屋の商いを始めたのが二○○年ほど前とのこと。この地域は岡村の地名が示すように利根川流域の小高い丘陵地帯で、水捌けが良く肥沃な耕地に恵まれコメや麦等の収穫が多かった。徳川時代はコメは年貢で徴発されるが、麦は年貢免除なのでそれが自家消費され、名物うどんの下地となったのであろう。

「二○○年の伝統を誇る岡村屋の手打ちうどんの秘訣は」と伺うと、「もともと手打ちうどんなどは単純な作業で、小麦粉に水、塩を加えて木桶に入れ手でこねるだけ。先代から身体で覚えろ! といわれているのでその通りに打っているだけですよ」と店主は答えた。

岡村屋だけの秘伝は打ったうどんをかげ干しにして木箱に入れ一晩置くとのこと。こうするとうどんの光沢、コシがしっかりとして旨いうどんになるという。つけ汁は脂身の少ない本節を毎日けずり、極上の煮干しとともにしょうゆと合わせ作る。西の方が見たらあまり黒いのでびっくりするだろうが、これがまた何ともいえぬ当たりの柔らかさと風味で、少し色黒のうどんとうまくマッチしている。天プラは、今年八五歳になる肝っ玉かあさんのご母堂が天ぷら鍋の前を陣取り揚げている。

海老天、野菜天とあるが、岡村屋の名物はイカ天、つまりイカのかき揚げ天ぷらだそうだ。

二○○年の伝統は伊達ではなかった。

うどん盛り四○○円。たぬき、きつね五○○円。イカ天ぷら五○○円。ビール六○○円。酒四○○円。椅子席二五席、座敷二五席。営業時間・午前11時~午後9時。休日・月曜日と第三火曜日。住所・埼玉県加須市不動岡二-六-四○(不動岡不動尊ご門前)。電話0480・61・0751。

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