百歳への招待「長寿の源」食材を追う:「何首鳥(カシュウ)」
日本では強壮・強精が期待できる漢方薬というと、まず朝鮮人参の名が挙がるが、中国ではそればかりではない。薬酒にして秘薬として利用されている二銘柄を紹介する。
(食品評論家 太木光一)
何首烏は日本語でカシュウと読み、日本名ではツルドクダミの名前で知られている。タデつる性の多年草である。
日本人は昔から朝鮮人参の薬効を高いものとして珍重するが、中国では何首烏をそれ以上に取り扱い、古来から強壮・強精の秘薬としている。黒色の根部が漢方薬となる。
多くの史実書による薬効をみると、
『開宝本草』 血気を益し、髭髪を黒くし、顔色を悦沢にする。長服すれば筋骨を長じ、精髄を益し、天年を延べ老衰しないとある。
『大明』 久しく服用すると生殖作用を有効ならしめ、腹臓の一切の古疾、冷気腸風を治すと記してある。
『李時珍』 何首烏はよく血を養って肝を益し、精を固め、腎を益し筋骨を健にして頭髪を黒くする。故に滋補の要領で、その効力は地黄・天門冬などの上にある――としている。
現在風に薬効を訳すと強壮・保健・疲労回復・老人性退化の若返り・造血・常習便秘などによく、長寿の妙薬となる。
中薬辞典のあげる薬効では
(1) 降血脂作用で、血清コレステロールの降下作用があり、腸管からの吸収を妨げる。動物実験をみても明らかに血清コレステロールの増加を制御している。
(2) 血糖的作用では、血糖値の上昇を抑えるのに有効である。動脈硬化を制御し、類脂類が血管に沈着するのを防止する働きがある。
(3) 抗菌作用があり、人間の結核菌に対して有効に働く。
(4) その他、腸管の蠕動を促進し、おだやかな便通を整える。
――など諸効果がみられる。一日二~五㌘の常用が望まれる。
利用法で一番良いのが何首烏酒である。何首烏一五○㌘、グラニュー糖一五○㌘、果糖五○㌘、ホワイトリカー一○○○㍉㍑(三五度がよい)。細刻した何首烏を容器に入れ、ホワイトリカーを注加。糖類を入れる。
密閉して冷暗所に保管する。一ケ月で浸出は終わるが、熟成には三ケ月以上を要す。中身はそのままでよいが、引き上げは五~六ケ月後に。
酒は美しい琥珀色に仕上がり、色沢は東洋の秘酒と呼ぶにふさわしい。数多い本草酒の中でもトップクラスである。特有な臭いとわずかな苦み・渋みを持っているがストレートによく、カクテルにも向く。飲み方として一日三○㌘から始めて四○㌘を限度とする。強過ぎるので要注意である。古来から強壮・強精の秘酒として知られているが、疲労回復・睡眠・老人性無力症にも特効が認められている。
何首烏は漢方薬店でも容易に求められ、しかも価格は極めて安い。中国にみる主産地は河南・湖北・貴州・四川・江蘇・広西ほか。日本には江戸享保年間に漢方薬として渡来し、国産品も生薬として販売されている。中国では薬膳用として飴やタツフイが販売されているが、まだ日本にはみられない。