食卓にシャンソンを フランスめぐり(その5)
ドイツに四泊ほどしてパリに入った。やはり言葉が分からないドイツより、パリの方が気分的にホッとする。
ホテルでは朝食を取らずに外で食べることにしている。街のカフェに入ってみると、その国の人たちの動きや習慣が少し分かるような気がするからだ。
今日は、私の大好きなマドレーヌ寺院の側にある「ラデュレ」にした。この店はマコロンが非常においしく有名。それに薄切りにしたパンにサーモンまたはキャビア、カニなどがたっぷり入っている小さなサンド・イッチ。もちろんチョコレートも昔からおいしい。この朝はカフェ・クレーム(コーヒーとミルク)とパン・ショコラにした。
店内は百年以上の歴史を匂わせるだけの内装。天井には淡い色彩で天使たちがたわむれている様子が描かれている。梁や天井廻りにはヨーロッパらしい素晴らしい細かい摸様が彫られ、金色に塗られている。現在、これだけの仕事が出来る人がいるのかと息子と話し合った。コーヒーポットやお皿はすべて銀食器でかなり使い込まれ、皿の底が丸みをおびていた。サービスの女性は長年その仕事をしているせいか、何の支障もなく運んでくれたが、熱いコーヒーを入れようとすると、お料理で鍛えた私の手でさえ持てない。
この店の感じ、二、三日前まで旅行していたドイツと、隣の国なのに全く違う。ドイツは無駄がなくイメージとしては直線。ウインドーのディスプレイも家庭用品のデザインもストレートでシャープだから、新鮮さを感じる。好き嫌いは別として、フランスの方がソフトで柔らかい。
食事が終わる頃、雨が降って来た。息子が新聞を店の前の売店へ買いに出てびっくり。ダイアナ元妃が交通事故で亡くなった。夕べ、二人でちょうど噂をしていた時間だ。それも二~三㌔離れた場所。ショック!
雨は一五分たらずであがった。短時間で雨雲はどこかに行ってしまう。これがパリのいいところである。
パリの街はいつもと変わらず、それぞれ自分のことで動いている。
(シェ・ピアフ主宰 淡谷智)