環境は遺伝子に勝つ ブラジル(カンポグランデ) 問題は岩塩付き肉の偏食

1998.01.10 28号 3面

太平洋に浮かぶ南の島・ハワイでは、そこにあるものは何でも利用する沖縄人の柔軟性があますところなく発揮された素晴らしい食文化をみることができた。南米・ブラジルでも同様の結果が得られたのだろうか。調査が行われたのは、首都・サンパウロから八○○キロ西に入ったカンポグランデという街だ。

この街は地理的にはほぼ沖縄と同じ緯度の亜熱帯。いまでは大都市に発展しているが、かつては一面の熱帯ジャングルで、その開墾には大変な苦労があったという。なぜこの地に大勢の日本人が住むようになったのかという話には、胸つまるものがある。サンパウロに移住したものの仕事がなかった多くの日本人は、当時進行中だった鉄道レールの敷設工事に従事した。レールが延びるたびに人々は密林の奥まで入っていったが、終点のこの地でとうとう職を失い、やむなく開墾を進め農業を始めることを余儀なくされた。

そのような情熱と根性の民、ブラジル日系人の身体の状態であるが、一九九一年に行われた五○歳代前半の人たちの調査結果は、決して良好ではなかった。「二人に一人が肥満。高血圧者の割合も男性で三三%、女性で三七%と高い。総コレステロール値、ナトリウムに関しては沖縄と同じくらいでしたが、虚血性心疾患の傾向は沖縄の二倍、実に九%の人の心電図に異常があったのには驚きました」(同)。

カンポグランデでは日系人も含めた平均寿命が沖縄より十数年短く、死因は虚血性心疾患が大半であることも分かった。虚血性心疾患は沖縄では少ないのに、移住すると顕著に増加することが明らかになったわけだ。つまり、カンポグランデの日系人はブラジル白人と同じ健康状態になってしまっていたのだ。

*虚血性心疾患 心臓の血管・冠動脈がつまって心筋梗塞になること。

カンポグランデの食生活の何がいけないのか。まず筆頭に挙げられるのが肉食への極端な偏りだ。「日本でも一時ブームになったシュラスコ、あの牛肉の串刺し焼きをよく食べます。大きな塊のまま焼くので肉の内部まで火が通らず、そのため脂肪分はほとんど落ちません。岩塩をこすりつけて焼くのでいやでも塩分はたっぷりとってしまいます」(同)。

加えて内陸部でもあることもあり魚はほとんど食べない。「近くには大きな川があり淡水魚がいるのですが、魚を食べるのは二週間に一度あるかないかという答え。もちろん海藻はまったく食べません」(同)。

食物繊維の多い果物は豊富でよく食べられ、これはコレステロールの排泄に一役かっていることが分かった。

事態を憂慮した調査隊は一九九六年、再びこの地を訪れ栄養改善運動を大々的に実施した。日本の長寿食のエッセンスともいうべき三つの栄養素、つまり魚の油(DHA)、と海藻(わかめの粉末)、大豆成分のイソフラボンを食べてもらいカウンセリングを行うというもの。結果はわずか一○週間で、血圧および血清コレステロールの低下、骨からのカルシウム喪失の抑制などめざましいものとなった。

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