ヘルシー企業の顔:伊勢惣・足立開作代表、紅麹に魅せられて
味噌、しょう油、酢……日本人の長寿の秘訣は、麹を用いた発酵食品を多く食べていることが一つのキーワードといわれる。これらの調味料はコメなどのデンプン質を醸造発酵させることによって作られるが、これに欠かせないのがコウジ菌。コメや大豆、麦などの穀物にこのコウジ菌を繁殖させたのが「麹」といわれるものだ。米麹やヌカを扱うメーカー・(株)伊勢惣の足立開作社長に、人類の健康の鍵を握る微生物の世界について聞いた。
「いまとくに注目しているのは紅麹。麹は原料別に米麹・豆麹・麦麹などに分類され、またコウジ菌の菌糸の色別に黄麹・黒麹・紅麹などとも呼ばれます。日本では黄麹を使って味噌、しょう油、酢などを作ってきました。中でも鮮やかな赤色の菌糸を持つ紅麹は、生活習慣病予防に有用といわれているのです」。
もともと麹自体が中国では漢方薬として使われてきた。とくに紅麹に関しては中国の古医書『本草綱目』に「活血」(血のめぐりをよくする)との記載も見受けられ、現在でも婦人用保健薬として利用されている。
「紅麹には豚肉などの腐敗を防ぐ作用があり、中国や台湾では古くから紅麹を主に醸造用の麹や、肉や野菜の漬け物、炒め物の着色料や香料などに使っています。中国の酒『紹興酒』は、紅麹を使って作られる酒。あの独特の赤色や甘い香りは紅麹によるもの。日本でも沖縄の『豆腐よう』は、豆腐を紅麹や泡盛につけ込んだもので、チーズのような風味が人気の珍味。琉球王朝時代から滋養食として珍重されてきた食品です」。
実は私たちの身近でも紅麹はよく使われている。例えば『カニカマボコ』。赤い色素をつけるのに使われ、他にも菓子パンのジャムやウインナなどの着色、キムチや焼き肉のタレの隠し味としても使われている。
「私は“コウジ屋”ですから、この紅麹づくりにもかつて取り組みました。ところが見事失敗。黄麹が通常二日程度で作られるのに対し、紅麹は七~一〇日も要し、でき上がっても鮮やかな赤色にならないのです。
どうやら台湾や中国の原野には多く棲む紅麹の原菌も、日本の気候風土には合わないようだ。それなら無理に日本の工場で作り出すことを止め、台湾に現地合弁会社を設立しよう、と台湾に紅麹工場を作りました」
紅麹は血圧を低下させる働きがあり、高血圧にも有効であることが最近の研究で明らかにされている。
「不思議なことに、紅麹はあくまでも血圧を正常値へと向かわせるのみで、正常値より下げ過ぎることはないんです。もちろん副作用の心配もありません。またコレステロール値や血糖値を安定させる作用も確認されています。私も毎日ヨーグルトに混ぜたりして食べています。おかげでいまのところ健康診断で引っかかる項目はナシ。一日スプーン一杯の紅麹が、潜在的な病気を予防してくれているようです」。
最近は和食回帰で、ぬかみそや味噌汁がまた見直されている。同社では若い主婦が気軽に漬けられるように“袋で漬けるぬかみそ”や、冷蔵庫にそのまま入れられる小型ぬかみそ樽“つかっタル”を発売、人気を呼んでいる。
「これからも“コウジ”を通じて、みんなが健康になれる術を考えていきたいですね。日本人が伝統的に営んできた食生活を、現代人の生活スタイルに合うような形で取り入れていけるような商品を開発していきたいと思っています」。
◆プロフィル
あだち・かいさく
昭和2年11月15日生まれ。旧制高校卒業後、昭和22年(株)伊勢惣入社、平成3年社長就任、現在に至る。袋入りぬかみそなど、業界をリードする斬新なアイデア商品を次々開発。数多くの特許も取得している。健康法は二匹の愛犬との散歩。毎朝80分ほどの充実のひとときが心身とも健康を保つ秘訣とか。