おはしで防ぐ現代病:キノコ摂取とがん罹患率の関連性
現在、がんや循環器疾患・糖尿病など生活習慣病や難治性疾患の解決のために、東洋医学も西洋医学も伝統医学も近代医学も統合した考え方が求められている。日本統合医学研究会の池川哲郎氏は、JACT(日本代替・相補・伝統医療連合会議)主催の学会(平成12年6月2~4日、於東京女医大)で、『代替医療はどこまで難病を治癒できるか』と題し講演した。
がんの罹患に関する食生活・食習慣の臨床研究として、現在さまざまな疫学研究が活発に行われている。
食用キノコ摂取とがん罹患率の関連性について、エノキタケの生産農家で行われた疫学調査がある。その結果によると、長野県におけるエノキタケ生産農家のがん死亡率は、長野県全県のがん死亡率と比較して、有意に低いことが分かった。
調査は昭和47年~61年までの一五年間を対象にしたもの。この結果をさらに解析すべく、平成11年度からは、国立がんセンター研究所臨床疫学部と長野県農村工業研究所を中心に佐久病院・北信病院・松代病院・篠ノ井病院の四病院が参加して疫学研究を進めている。
ヒト・ゲノム解析も予想より早いペースで進むいま、近いうちに人の全遺伝子が解読され、その結果は薬の使い方や病気のリスク因子の解明などに役立てられるであろうと考えられる。前述のキノコに関する研究でも、遺伝子分析を導入して調査結果を詳しく実験的に解析する計画がある。
キノコには食用キノコもあれば毒キノコもある。人類は長い歴史の中で、ある種の食べ物を摂取すると病気が治ることに気づいたのだが、われわれも上述のような研究結果に基づき食用キノコの抽出物(『EEM』の名で市販されている)の三ヵ月の摂取によって、一八例中一五例の患者にNK活性の亢進がみられたという臨床結果を得た。
いまわれわれが食べているキノコは、われわれの祖先自らが実験動物になって、薬用や食用になる動植物を検証し選び出してきたもの。まさに祖先の遺産といえよう。特に我が国はアジアモンスーン地帯にあり、かつ栽培技術進んでおり、現在食卓にのぼる食用キノコは種類も量も非常に多い。
こうしたキノコの研究を通じて、東洋の伝統医学でいわれる「医食同源」「薬食同源」という言葉の歴史の重みと真実性をあらためて実感している。
これから21世紀は「代替医学」から「統合医学」へと発展していくと考えられる。医療の現場では近代西洋医学のめざましい進歩をふまえても、なお克服できない難病に対して、新しい統合医学ないし全人的医療(ホリスティック医学)が患者側からも医師の側からも必要とされているのだ。
また、われわれ人類は「こころ」を持ったナマミの人間であることを考えると、「こころ」を含めた全人的医療あるいはホリスティック医学も、これからますます注目され、研究されて成果を上げていくものと期待する。
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JACT(日本代替・相補・伝統医療連合会議)では、渥美和彦理事長自らが、アリゾナ、ミュンヘン、ハワイにおける三つの学会に出席しとりまとめた学術報告書『世界における相補・代替医療の現況と問題点』を発行した。▽A4判、3000円(会員価格2000円)税込。送料別。問合せ・申込先=03・3812・5030