食べて・走って・勝った 回想の「バルセロナ五輪」山下佐知子さん

1996.04.10 7号 10面

四年前の夏、スペインのバルセロナで熱く戦った女性、山下佐知子さん。日の丸をつけたユニフォームで四二・一九五キロの過酷なレースにいどんだ。結果は堂々の四位でゴール。晴れやかな舞台で勝利を得た山下さんに、当時の食事事情などうかがった。

大きなレースの三ヵ月くらい前から「食事チェックノート」を作って、毎日何を食べたか書き込むんです。そうすれば自分でバランスがとれているかどうかチェックができるでしょう。食べ物にはこだわりがあります。「玄米食がいい」とか「有機農法野菜しか使わない」とか。みそや醤油も本物を選んでいます。そこまでやるので栄養士さんにアドバイスをもらい自分で管理していました。結構面倒なので続けるのはしんどかったですね。でも自分でやるのと、他人に任せるのでは精神的にかなり違いますから。

オリンピックの選手村ではパンだけの陳列棚があって、食事用のパンが常時一〇種類程置いてあるんです。私はどこに行っても好きなものしか目に入らないタイプですから大好きなパンの陳列棚は印象的でした。

あとはバルセロナの街で食べたパエリアがとても美味しかったです。

「食べているか、寝ているか、練習しているか、どれかだね」なんて言われていたんですよ。基本的に食事と睡眠と練習はどれも同じ程度で大切で、どれも譲れないんです。だから練習について一生懸命考えるのと同じように食事についても考えます。一生懸命練習し、考えると身体も疲れるので選手の時はよく寝ていました。

そうやっていると身体が「別の生き物」に出来上がっていくんです。選手だった時は自分が「別の生き物」だったのでわからなかったのですが、走らなくなり普通の身体が戻ってきて改めていまそう思います。「選手用の別の身体」は創っていくんですよ。

走ることが子どもの時から好きでした。校内マラソンでは一番になれるのに短距離ではどうしても一番になれないんです。なんでも負けるのが嫌で、勉強でも、絵を画くのでも負けたくなかった。でもそれは一番でなくても良かったんです。どうしてもマラソンだけは一番でなければ嫌でしたね。

大学を卒業して一度は中学校の教師になりました。でも走ることへの想いが我慢できず「マラソンで日本を代表するような選手になりたい」と生徒に告げ辞めました。いい結果が出せたから言うのではないですが、「教壇に立って教えるだけが教育ではなくて、自分が行動で示すことで生徒が感動してくれればそれも教育」だと思います。今は指導者として日の丸を付けて走れるような選手を育てていくことが一番の夢です。

試合が終わってからは選手村に戻りました。でも身体はすぐに元に戻らず、だるかったですね。自分の試合は終わったけれど他の選手の試合を見に毎日競技場には行ってました。もう何を食べても良いのだけれど、基本的にパンとコーヒーとサラダがあれば十分なので選手村での食事は印象がないです。

気分がおちついてくると試合以外のことにも目を向けることができて、「あっ、池谷選手だ!」とか多くの選手に会うたびに心の中で騒いでいました。何となくお互い知っているけれどあいさつ以上はできないようなね。今思うともったいないことをしたなぁ…なんて思います。オリンピックは本当に貴重な体験です。

◆やました・さちこ=1964年8月20日生まれ、大阪府出身。鳥取大学教育学部卒業後、付属中学校教員になる。1学期終了後、京セラ入社。91年名古屋国際女子マラソン優勝。第3回世界選手権女子マラソン2位。92年バルセロナオリンピック女子マラソン4位。現在は第一生命女子陸上競技部コーチを務める。

◆1992年8月1日 ゴールまでの一日

朝食=AM8:00海外はパンがおいしい

朝食はホテルのバイキングでした。ちょっとずついろいろなものを取って食べました。パンが好きなので4種類いただいています。海外ではおいしいパンに出会えるのが楽しみですね。卵やチーズも忘れず食べています。当日は牛乳やヨーグルトなどの乳製品は食べません。身体をつくる時期には意識して食べますが、レースの日はおなかが緩くなる可能性のあるものは食べないです。

散歩=AM10:001日がとても長い

夕方のレースだと1日がとても長く感じられます。朝食後に約50分間の散歩に出ていますが、あまり気分のいい散歩ではなかったです。やはりかなり緊張していましたから。

ランチ=PM1:30有森さんからもらったカステラ

日本のマラソン選手団はレース前、選手村ではなくホテルにいました。当日の昼食は1時半頃に食べ、あとはレースまで水分を少し摂るだけでした。カステラは前日に有森さんがくれたんです。1本の半分くらいを。この時はいただいた分を何回かに分けて全部食べました。

給水=PM7:00スポーツドリンクを薄めて

給水にはスポーツドリンクを味がしないぐらいまで薄めて使っていました。夏場の大会だと大会側が配慮してくださって冷やしてくれるんです。給水ポイントではたくさん置いてあるので自分のがどれか、すぐわかるように好きな色のリボンや旗をつけていました。旗には応援してくださる方々からいただいたお守りもつけていました。間違えて取ることはなかったですが、取りそこねたことは結構ありますよ。

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