だから素敵! あの人のヘルシートーク:ホリスティック栄養学士・スタルヒンさん

2001.07.10 71号 4面

「ホリスティック(全体)栄養学」とはまだまだ耳慣れない言葉だが、西洋医学的に人の身体を部分ごとに見るのでなく、東洋医学的に身体全体で見る「ホリスティック医学」がもとの栄養学という。中でも「酵素」の働きを重要視して身体を活性化する新しい食事法を提唱しているナターシャ・スタルヒンさんのお話を聞いてみたい。

(日本中医薬研究会第四回全国女性大会から)

●日本は「食品栄養学」の国

最初から厳しい指摘になりますが、いわゆる日本の栄養学は世界の栄養学に比べて二五年遅れているといわれています。日本の場合は「食品科学」なんですね。食品に含まれている栄養素がどういうものなのかだけを考えて、それを取ることによる生理学、医学との関連がない。

あるテレビ番組の裏方をやっていた時のこと、大変困った現象に立ち会ってしまいました。テーマはイタリアントマトでした。最近よく出回っている細長い、堅めのトマトです。日本のトマトよりも成分が多いので血液をサラサラにする効果があるという筋書きのもとに二人の女性を対象にして実験を行ったのですが、一週間後、結果は全く反対になってしまった。イタリアントマトを食べた人の方がドロドロになり、普通の日本のトマトを食べた人の方がサラサラになっていたのです。

どうしてこんなことが起きたのか。普通のトマトを食べた人は普段、生の野菜は全く取らない人だった。それが毎日食べたのだから、当然状況は改善されます。イタリアントマトを食べた人は血液の状態だけでなく、全身痒みに襲われてしまったのだけれど、この人は常日頃から睡眠時間が少なく、食生活ではこってりしたものは食べていない。それがチーズをかけて煮たり焼いたり調理するイタリアントマトを、四時間しか寝ていない身体で一週間も無理矢理取ったとしたら、当然ストレスも起こり、血液がドロドロにもなります。いくら栄養成分がこちらが多い、こちらが少ないといっても、それを受ける側の身体、消化する能力とか遺伝子の状態、ライフスタイルとかを無視してしまったら何にもならない。そうした個体差をきっちり考えて、自分の身体の細胞を最大限に働かせることを考えていくのがホリスティック栄養学の基本です。

●自己クリーニングできない現代人

私自身がホリスティック栄養学を本格的に勉強し始めたのはまだ六年前です。でも振り返ってみると、ダイエット歴二二年の中で、すでにこの理論の延長線にあることを実践していたのだな、と思いました。学校を卒業し就職にあたってスチュワーデスに採用されたのですが、「少し痩せなさい」というのが条件だったのです。当時私は八五キロありました。その「少し」というのは二五キロだったんですね(笑)。

自分なりにかなり無理して落としましたよ。その後もリバウンドの問題と向き合い、何とか維持できる状態を作ってきました。それで自分で独立して事業を始めようとした時、一生懸命勉強してきたダイエットの指導をしたいと考えスタートを切りました。エステ、鍼灸院、様々なアプローチの後で、ホリスティック栄養学に出会って、いままで考え続けてきた“点”が“線”でつながるようになった。でも最初のうちは、いま思うと知識レベルでしたね。それが変わったのが四年前、血液栄養分析を始めてからです。

みなさん、「血液検査なんて病院でしています」と思っているでしょう。でもあれは死んだ血液、言うなれば、薬剤を入れた血液の加工品なんです。対して血液栄養分析は動き回っている生きた血液の分析です。指先からとった一滴の血液を特殊な顕微鏡で拡大して見る。通常病院で受ける検査は、病気か健康かその範囲を単純に分ける検査、いわば病気の人捜しの検査です。「はい、健康です」と言われた人の中でも果てしなく病気に近い人もいる。というのは、日本人の突然死の割合は全体死亡率の一割以上、がんに次ぐ勢いで、その七〇%は循環器系です。ある日突然死んでしまう前は、自分は健康だと思っていた。けれど血管の病気は急に悪くなる訳はなく、少しずつ進行し最後に急激になる。血液検査ではその中間、いわゆる「未病状態」が分からない。ところが生きた血液の分析を見ると、実際に病気と診断される一八カ月くらい前から血液細胞の変化が分かる。それだけの時間があればどんな対策も打てますね。

血液を見ていくと、その人の栄養摂取状態、消化分解能力、排出・浄化状態、活性酸素除去状態が分かる。健康な血液とは赤血球がコンパスで書いたような七ミクロンのまん丸、血漿部分には何もないサラサラ状態です。ところが現代人のほとんどは多かれ少なかれ、反対のドロドロ状態に傾きがちです。きちんと分解されなかった未消化物質が血管の壁についてプラーク(血管壁の汚れ)を形成したり、菌を増やしたりして血液を汚している。タンパク質の分解ができていないと尿酸の結晶ができてしまう。糖質の分解がうまくいかないと、これがエサになりバクテリアとかの菌類が増えていく。また、血液中のタンパクが不足すると一定の割合を保とうと血液中の水分が組織の方に逃げるので、赤血球が重なりあってしまう。そうすると酸素を持っている表面積が小さくなり、抱えられる酸素も少なくなる。つまり酸素も栄養素も末端の細胞に運ばれなくなる。当然、頭がぼーっとしたり、肩コリがするという症状が出てきて、さらにはもっと恐ろしい生活習慣病に発展していくわけです。

どうしてこんなことになってしまったのか。私たち現代人の身体には年間四キロくらいの化学物質や農薬や添加物、ダイオキシンなど二万五〇〇〇種類の毒物が入ってきているといわれますが、このようなことが一因になっています。加えて電磁波や紫外線の問題もある。もちろん、身体は本来、自己クリーニングシステムを持っていて、いったん入ったとしてもきちんと出ていけばいいのですが、いまはそれが間に合わない状態といえます。

●バナナはどうして熟していくのか

それではどうすれば問題を改善できるのか。ここで酵素というのものの存在が大きくかかわってきます。酵素というと皆さん、「消化酵素」のみをイメージするのだけど、実は全部で分かっているものだけでも三〇〇〇種類以上もあるということを、まず知っていただきたい。人がものを見る、聞く、腕の筋肉を動かす、それから例えば「あの人素敵だな」と思う。そのすべてに酵素がかかわっています。消化に使われる酵素は二六~二七種類だけれど、ひとつの酵素を作るのにまた二〇種類くらいの酵素が必要になってくる。つまり膨大な量の酵素が消化の部分だけに使われるわけです。消化活動に必要な酵素を一から一〇まで体内の酵素でまかなおうとすると身体には大変な負担がかかってきます。そこで神様は私たちが口にするものに「食物酵素」を用意してくれました。

食品はどんなものでも自分自身を消化する食物酵素を持っています。例えばバナナを想像して下さい。青いバナナをおいておくと黄色くなり、最後はベタベタになって溶けていく。これはバナナに含まれている酵素が自分自身を消化していくからです。そういうものを私たちが食べた場合、胃に受け渡される前にしばらく止まって「事前消化」を始めてくれる。そうすると胃に入った時にそこで分泌される酵素の量が非常に少なくて済む。十二指腸に入っても小腸に入っても同じです。

しかしこうした状態を作れるのは、食品を生で食べた時だけ。一般に四八度以上の熱を加えると酵素は破壊されるので、調理したものを食べると全くそのままとなります。そうするとそれだけ多くの酵素が出て無駄使いされることになる。その証拠に、調理したものばかり食べている人のすい臓は非常に肥大していきます。オーバーワークなんですね。そこでホリスティック栄養学では、五〇~七〇%を生もので取るよう、提唱しています。その他、よく噛んで口の中で食品をドロドロの状態にしてあげるなど、消化に負担をかけないようにするのも手といえます。

●代謝をあげて老化しない身体作り

ダイエットというと、日本ではイコール「痩せること」ととらえられていますが、この言葉は本来、「食事療法」全般を指します。糖尿病、腎臓病治療のための食事、すべてダイエットです。もし、お腹に脂肪がつき始めたのであれば、これは「代謝が落ちてきたよ」という身体のサインです。身体の中を活性化してあげないと、そのままでは、どんどん老化してしまう。身体の中を活性化してあげれば元気になる、結果、体重も落ちていく。そういうことでないといけません。

女性が一日に必要なエネルギーは一八〇〇~二〇〇〇キロカロリーと一般にいわれていますが、その程度あるいはそれ以下で太っている人が全体の七〇%もいる。大多数の太りすぎは「栄養過多」ではなく「栄養不足」が原因なんです。身体に必要な栄養素が不足してしまっている。それから取っていたとしてもきちんと消化分解していないという問題がある。そうであれば取ってないのと同じこと、基礎代謝が落ちるのは当然です。

「代謝機能を上げる」とよくいいますが、実際にはどういうことなのか。特定の仕事をしている身体の中の六〇兆の細胞一つひとつがマキシマムに一生懸命に働いている状態を作ってあげることです。すべての身体の中の代謝は酵素なしには働かない。だから身体の中の酵素がきちんと作られ、無駄使いされず、きちんと働く。これがいわゆる太らない身体作り、老化しない身体作りです。それを阻害する最大の原因は体内の汚れ。汚れてしまったら掃除をするしかない。体内に入り込んでしまった毒素、あるいは働き終わった老廃物をクリーニングして、血液を通じて腎臓・肝臓・肺・皮膚などの排泄器官に届け、尿や汗として分泌したり、呼吸で交換したりする。体内クリーニングの一番の方法は先に挙げた血液の浄化ですが、深呼吸、肌のブラッシングなども有効。睡眠時間や水分をきちんと取ることも重要です。

長い人生、自分の身体と真剣に向き合って、楽しい日々を過ごしましょう。

◆プロフィル

1951年、東京生まれ。日本航空スチュワーデスを経て、79年、自身の経験を生かしてダイエット指導をスタートし、現在で22年。(株)ビューティ&ダンディ、(株)HECジャパン代表取締役社長。美容健康コンサルタントとして講演、執筆など多方面で活躍中。ホリスティック栄養学修士、血液栄養分析インストラクター。日本プロ野球初の300勝投手、ヴィクトル・スタルヒン選手は父親。最新著は『顔・お腹・太ももの脂肪を落とす【部位別】食べ方』(青春出版社)

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