ようこそ医薬・バイオ室へ:グレープフルーツは降圧剤と一緒に飲んではいけません
お風呂上がりには、腰に手を当てて牛乳を飲むか、プシュッと缶ビールを飲むかに相場は決まっているものだが、我が家では夏の日焼け対策としてビタミンC補給のためにオレンジジュースやグレープフルーツジュースを飲むことが多い。
そのグレープフルーツジュースであるが、薬と一緒に飲んではいけないことは有名な話である。特に血圧を下げる降圧剤のうちのカルシウム拮抗剤や、免疫抑制剤・催眠導入剤・抗ヒスタミン剤などの一部の薬では禁忌事項となっている。一九九五年から医薬品の添付文書に記載することが決められているので、医師や薬剤師はその旨を患者に伝えなければいけない。それでも、たまに降圧剤を服用している患者がグレープフルーツジュースを飲んだために、急激な血圧低下に見舞われ救急病院に運ばれたりするらしい。
なぜ、グレープフルーツジュースとこれらの薬を一緒に飲むとよくないかというと、薬の代謝がグレープフルーツによって阻害されるからである。もう少し詳しく説明すると、口から飲む経口剤は、まず消化管から吸収され、肝臓で一部代謝されて、残ったものが血液に乗って分配され、最終的には排泄される。この中の代謝(分解)にかかわる酵素には多くの種類があるが、特にチトクロームP450(CYP)という酵素が中心となって行われる。このCYPにもたくさんの種類があって、ヒトゲノムのデータベースによると一〇〇種類くらいあるようで、それぞれ特異的に分解する薬が異なっている。このCYPの一つであるCYP3A4という酵素の働きを阻害する物質がグレープフルーツの中に存在するらしいのである。
つまり、このCYP3A4に代謝されるはずの薬を飲む時にグレープフルーツを飲んだり食べたりしてしまうと、予定量よりも多くの薬が血中を巡り、薬が効き過ぎることになる。
さらに、CYP3A4だけでなく、一旦吸収された薬を再び消化管に戻して排泄する薬剤ポンプ(P糖タンパク)も阻害することが最近分かってきた。代表的な降圧剤であるフェロジピン(商品名=ムノバール、スプレンジール)の例では、水での服用の場合、三〇%だけが小腸から吸収され、その半分の一五%だけが全身循環に入るのに対し、グレープフルーツジュースでの服用だと、最終的に四五%(水の場合に比べて三倍)もの薬が全身循環に入ることが報告されている。
同じ柑橘類のオレンジやレモンではその現象はなく、グレープフルーツの中のどの成分がCYP3A4を阻害するのか調べられていて、フラノクマリン類、フラボノイド、ナリンジン、デヒドロベルガモチンなどの物質が候補にあがっているが、まだ確証はない感じである。
また、薬と一緒にグレープフルーツジュースを飲まなくても、一〇時間前に飲んでも同じように薬の血中濃度は上がるので(特に濃縮還元ジュース)、先述の薬を服用している間は慎んだ方が良いようである。
ちょうど義父と義兄が降圧剤を飲んでいるので聞いてみると、二人ともカルシウム拮抗剤で、義父はニバジール、義兄はノルバスクであった。
ニバジールはグレープフルーツとの相互作用があるが、同じカルシウム拮抗剤でもノルバスクは相互作用がない。義父は特にグレープフルーツジュースが好きなので、早速妻が携帯電話から注意メールを送っていた。
((株)ジャパンエナジー医薬・バイオ事業部 高橋清)