数十万本に一本の霊芝の中の霊芝「鹿角霊芝」、その食効を現代科学で検証する

2002.08.20 84号 13面

鹿角霊芝。最古の薬物書である『神農本草経』(後漢時代)に幻の仙薬として記されている「不老不死の霊薬」だ。近年、自生する栽培環境の再現によってついに人工栽培に成功し、私たちもその奇跡の食効を得ることができるようになり、がん患者のQOL(生活の質)を上げるなど注目を集めている。しかしこの霊薬はなぜ、「久しく食すれば長寿を得て仙人の域に達する」とまで評価されてきたのか。その謎を追跡した。

有史以来、人間は山野に分け入り、自然物の中から自らの身体で薬と毒を得てきた。その先人の知恵を体系化した東洋医学の神髄で、霊芝は中でも最上位の上薬・神薬・仙薬とされてきた。この霊芝の中に数万から数十万本に一本、鹿の角のような独特の形をした個体が現れる。漢書『武帝記』によると、中国では「鹿角霊芝」が発見されると皇帝に献上され、国を挙げての祝宴が催された。日本でも、顕宗天皇に鹿角霊芝が献上され「三枝」の名を賜ったという記録が残っている。それはもちろん、通常の霊芝よりもさらに驚くべき効能を持つ極上品であったからだ。

かつては大自然の恵み、その気まぐれな偶然性の賜であった鹿角霊芝。現代科学的分析は、これが人工栽培できたことで初めて可能になったが、ここに至るまでにはもちろん、たくさんの科学者たちの気が遠くなる地道な研究があった。

日本においての研究は、たまたま秋田・八幡平に滞在していたキノコ研究家が、倒木に自生していた天然の鹿角霊芝を見つけ、持ち帰ったことから始まったという。最初は、キノコであるかどうかさえ分からなかっただろうが、何か直感的にひらめいたのだろう。一帯は火山地帯で有毒ガスが立ちこめ、付近に生命が存在しない危険なエリアだというので、採取には大変な困難を伴ったはずだ。しかしその苦労の甲斐はあった。調査の結果、これが古くから「仙人のいる場所にしか生えない」とされる鹿角霊芝であることが判明したのだ。

この調査によって、「鹿角霊芝と通常の霊芝は、菌体レベルでは全く同じ。つまり霊芝は環境条件を整えることで鹿角状に形状が変化する」ということが分かった。ということは、鹿角霊芝を作り出す環境が再現できれば、栽培は可能になる。霊芝の菌体は、極端な低pHや酸欠状態でも生きている。しかしただ単に過酷な環境というだけでは鹿角霊芝は生長しない。試行錯誤の結果、一九九〇年代半ばに、ついに霊芝の傘を枝分かれさせることに成功したという。

中国・天津生物医薬研究所では、早くから鹿角霊芝を様々な疾病の治療に用いている。崔承彬所長によると、山東省など鹿角霊芝の産地には際立って生活習慣病の罹患率が低く、上表のような服用後の改善例があるという。鹿角霊芝ががんだけでなく、自然治癒力・免疫力全般を増強していることが推察される。この山東省でも、やはり炭酸ガスの量・微妙な温度管理などで霊芝にあるストレスを与え、鹿角霊芝の栽培に成功した。

鹿角霊芝の枝分かれの仕方は環境によって実に様々で、それが内容成分にも大きく影響することが、いまでは分かっている。食効の柱にはβ‐グルカンがあるが、その含有量は形によって大きく変わってくる。通常の霊芝のように傘が開いてしまうと、胞子とともにβ‐グルカンが拡散してしまう。鹿の角状に栽培して成長点を無数に分裂させながら保てば、β‐グルカンの含有量はアガリクスの三倍の量までに安定する。

やはりあの不思議な形には、神のチカラが宿っていたのだ。

本来、過酷な状況下で成育したものに、人間の自然治癒力を増強する成分が生まれるということは、実に感慨深い。

「鹿角霊芝の科学的分析はまだ始まったばかりです。例えば免疫力を高める要素がβ‐グルカンだけなのか、特定することができません。未解明だった特定成分が明らかになり、その免疫活性の秘密が報告される日が近く来るかもしれません」と、サントリー健康科学研究所の木曽良信所長は話す。

人生は八〇年時代となった。自然治癒力・免疫力は、人間がもともと備えているものだが、生活習慣や加齢などの要因で個人差が出てくるのは否めない。一般には六〇代にさしかかると低下の傾向がある。時期を同じくして奇しくも霊薬の人工栽培が成功し、食効が解明されつつあることに、大いなる自然の必然性が感じられないだろうか。自らの習慣と努力で自然治癒力をキープし、豊かな人生を満喫していきたいものだ。

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