山もいろいろ:3000メートルは3分の2

2003.10.10 99号 5面

夏の南アルプス塩見岳山頂直下、急登にかかり後ろを歩くメンバーの荒い息づかいが聞こえてきた。まるで本紙でも紹介された七〇歳でエベレストに挑戦した三浦雄一郎氏の登頂寸前の息づかいのようだ。

ところで、あのとき三浦氏は酸素ボンベを背負っていたが、後で気がついたら登頂寸前にボンベ内の酸素が切れて、無酸素状態だったそうだ。空気が地上の三分の一の薄さの中で、それでも行動できたのは、やはりトレーニングのたまものだったのだろう。

一方、日本の高山。富士山は三七七八メートルと中では飛び抜けて高く、ほかに二番目の北岳や穂高岳、槍ヶ岳、花の綺麗な白馬岳など、普段登山をしない人たちにも有名な日本アルプスの山々は、ほとんどが三〇〇〇メートル前後の高さを誇っている。八〇〇〇メートルを超すエベレストの三分の一とまではいかないが、この高さでも気圧は平地の三分の二ほどになる。それがどのくらいかというと、例えば一気圧は一〇一三Hp。台風などすごい低気圧でも九四〇Hp程度だから一〇%弱しか減らない。三〇%も減ってしまう山の気圧は、日常ではとても体験できない低気圧なのだ。

そんな環境で登るのだから、みんな息が荒くなっても仕方がないことだろう。

空気の薄い中で効率よく空気を取り入れるためには、やたら息を荒げてハァハァいってもうまくいかない。肺の中に残った空気をなるべく多く外に出してしまえば、後は自然に入ってくるというのがものの理。そう、まず吐くことが肝心なのだ。

吐く時は口笛を吹くように口をすぼめ、おなかをへこませながらゆっくり空気を外に出す。吸う時はリラックスしておなかをふくらませれば自然に空気は入ってくる。その時、口を結び鼻から吸うようにする。冷たく乾いた山の空気を暖め湿気も与えて、身体に優しい空気にして取り込めるからだ。

このように横隔膜を上下させてする呼吸を腹式呼吸といい、慢性の肺疾患を持っている人たちがトレーニングしている方法である。ヨーガや太極拳、日本の武道などでも、正しい呼吸法は精神を統一し健康にも良いとされ、それらの呼吸法にもこの方法と共通する部分が見える。

つまりは、山登りでバテない上手な呼吸ができるようになると、普段の健康にもフィードバックされるということになり、やっぱり登山は素晴らしいという結論になってしまった。

((社)日本山岳ガイド協会 公認ガイド 石井明彦)

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