ヘルシートーク:料理研究家・辰巳芳子さん
毎月ご自宅で開かれるお料理教室「スープの会」は、なんと3年待ち。主婦層をはじめ、多くの人が絶大な信頼を寄せる、お母さんのような料理研究家・辰巳芳子さん。“なぜ食べるのか”“料理をする意味”など、生きることや食べることについて、ちょっと聞いてみたい。
◆1 食事は、「生命の刷新」
365日、1日3回の食事をきちんと整える。これって、なかなか難しいことですよね。私のお弟子さんたちでも、台所仕事を重荷と思わずにこなしている方はいません。もっと家族を愛さなければ、と頑張って台所仕事をする人も多いのですが、その前に、人はなぜ食べるのでしょう?
生物学者の福岡伸一さんは『もう牛を食べても安心か』という本の中で、ものを食べると古い細胞と新しい細胞が入れ替わり、そこに「生命の刷新」が行われると書いています。食べることは、生命の刷新。それから、食べっぷりにこそ生命の状態が端的に表れていると思うんです。命を守る最小の単位が家庭なので、夫や子どもたちの体調や状態を、食べている姿で判断することも大事。家事はHouse Keepingではなく、Life Keepingなんですよ。
◆2 おだしをとろう
最近は地球温暖化の影響からか、風土の体系が変わっています。暑い夏を凌ぐには先人の知恵を手に入れなければ。そこで質問。家できちんとだしをひいていますか?
世界の数あるスープと比べて、過不足ない栄養素のおだしは優れています。コンソメは作るのに50分かかるし、ソース用の子牛の骨からとるエキスは、レストランだと24時間くらいかかる。日本のだしは、昆布は水出しもできるし、鰹節は入れてから何呼吸かでいいから、インスタントに準じて作れる。それに、丁寧にだしをひいたお吸い物をいただくと、“力が戻った”という生命の手応えも感じられます。すっと肩が楽になる。身体が呼応するもの、体を養うものを選んで食べるといいですね。
◆3 ポイントは、“まとめ”作り
だしをひくのは大変かもしれませんが、毎日やる必要はないんです。土曜日などにまとめてひいて、冷蔵庫に入れておけばいいの。お野菜もそう。塩水に10~15分くらい浸してあくを取り、底味をつけたら、蒸して保存する。使いたい時にお味噌汁にしたり、オムレツに入れたりできるから。
だしをひく。ここから生活を見直し、改善していきましょう。
○プロフィール
たつみ・よしこ 1924年、東京生まれ。料理研究家。(株)茂仁香代表取締役。「良い食材を伝える会」「大豆百粒運動」「確かな味を造る会」会長。聖心女子学院卒業。家庭料理は母の傍らで覚え、独自にフランス、イタリア、スペイン料理なども習得。新聞、雑誌、テレビなどで食との関わり方を提言し続けている。著書は『辰巳芳子 慎みを食卓に-その一例』『手からこころへ』『いのちをいつくしむ新家庭料理』など多数。