ヘルシートーク:食生活ジャーナリスト・岸朝子さん

2010.02.10 175号 05面

 「おいしゅうございます」の名ゼリフで有名な岸朝子さんは、いまなお第一線で活躍する料理記者の草分け。そのパワーの原動力は、やはり食にあり。日本各地の食文化を知る楽しみや、バランスのいい食生活のすすめについてうかがった。

 ◆食文化を知ると、旅やお取り寄せの楽しみが広がります

 昨年、『食の地図』という本を監修しました。日本各地の食材や特産品、郷土料理を都道府県ごとの地図上に、写真やイラストでわかりやすく紹介したもので、「日本の食文化をエリアごとに俯瞰できる」「旅の楽しみが広がった」と好評いただいております。南北に細長く、四季の変化に富んだ日本は、地方や季節によって、実に多彩な食材を目にすることができます。私自身、全国を食べ歩いていますが、何度旅をしてもそのたびに「あら、知らなかったわ」というものに出合えるので、興味が尽きません。

 最近知って一番印象的だったのは、秋田の山菜「みず」。秋になると葉のつけ根あたりが赤く膨らんできて、ツブツブした実(むかご)がいくつもできるんですね。独特の歯ごたえとねばりのある実は、地元の人に聞いたら、みそ漬けや天ぷらにするのがいいとか。

 見たことも聞いたこともない美味が、まだまだ地方にはたくさんあります。“地産地消”とよくいいますが、その地に出かけていって、その地ならではのものをいただくのは、とても贅沢な楽しみだと思います。私がみなさんにいつもおすすめしているのは、地方に行ったら、まず地元の市場を訪ねてみてほしいということ。その地方特有の旬の食材を市場で教えてもらえば、レストランでもおいしい料理を注文できますからね。

 たとえ旅をしなくても、地方の味に触れることは可能です。先日、娘が石川県珠洲(すず)市から、能登牛のミルクを使ったパンをインターネットで取り寄せていました。宅配便が普及し、インターネットで手軽にお取り寄せができるようになったいま、地方のおいしいものは以前よりずっと身近になりました。お取り寄せは、地方の活性化のためにも大いに奨励したいです。作り手も「こうやって食べるんですよ」などと、もっとPRしてほしいですね。

 ◆1週間単位でバランスを取る食生活を

 32歳で料理記者になって以来、4人の子どもを育てながら、ずっとフルタイムで仕事をしてきました。雑誌『栄養と料理』の編集長を務めたり、料理書を何百冊も編集したり、テレビ番組『料理の鉄人』の審査員を務めたり。仕事を始めて今年でなんと55年になりますが、相変わらず取材に講演会に、忙しく全国を飛び回っています。

 「一体どうしてそんなにお元気なのですか」とよく聞かれます。決まって答えるのが、「バランスのいい食生活を心がけているからです」ということ。食は命の源ですからね。恩師の女子栄養学園創立者・香川綾先生の教えに基づき、4群に分けた食品(第1群=牛乳・乳製品・卵、第2群=魚介・肉・豆、第3群=野菜・いも・フルーツ、第4群=穀物)をバランスよく取るようにしています。野菜はたっぷり、肉は少なめに。カロリーと食塩、動物性脂肪は取り過ぎないよう肝に銘じています。

 でも忙しい方が、1日単位でバランスを考えるのは難しいでしょうね。私だって、仕事がら外食も多いですし、それほどストイックに実践しているわけではありません。1週間単位でバランスが取れればいいのです。たとえば8個入りの卵1パックを買ったら、1日1つずつ必ず食べなくてはというのではなく、ある日は3つ使ってオムレツを作り、ある日は1つをうどんに落としたりして、1週間で使い切ればいい。

 「昨日は肉を食べ過ぎたから今日は控えて、野菜を多めに食べましょう」といったバランス調整をするためには、やはり少なくとも1日1食は自分で作るべきですね。健康長寿のカギは料理にあり、といっても過言ではありません。

 ◆旬の野菜の生命力をいただきましょう

 旬の野菜は栄養豊富で、とても身体にいいものです。いまの季節なら、たとえばかぶ。「かぶと油揚げのみそ汁」なんてよく作ります。すりおろしたかぶに卵白を加え、ひと口大に切ったうなぎの蒲焼きと合わせて蒸した「かぶら蒸し」もいいですね。レンジでもできてしまう、意外と簡単なメニューです。出来立てにあんをじゅっとかけていただけば、身体が芯から温まりますよ。やわらかく煮たかぶに練りみそを添え、柚子の香りを効かせた「かぶのふろふき」もぜひ。旬の野菜の生命力を身体に取り込んで、みなさんも健康長寿を目指してはいかがですか。まず実行!

 ●プロフィル

 きし・あさこ 1923年東京生まれ。32歳で料理記者になり、『栄養と料理』編集長などを経て、1979年に編集プロダクション「エディターズ」を設立。数多くの料理書を手がける。1993年より人気テレビ番組『料理の鉄人』に審査員として出演。的確な批評と「おいしゅうございます」の名ゼリフでおなじみに。主な著書に『東京五つ星の手みやげ』(東京書籍)、『岸朝子のおいしいお取寄せ』(文化出版局)、『極上おいしい朝ごはんの宿』(祥伝社)など。

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